結論からいうと、正社員・パート・アルバイトに、法定労働時間を超える残業または法定休日の勤務をさせる可能性がある飲食店は、原則として36協定を締結し、有効期間の開始前に所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
「忙しい日だけ30分残ってもらう」「欠員が出た週だけ勤務を増やす」という運用でも、1日または1週の法定労働時間を超えれば対象です。一方、所定労働時間を超えただけで法定労働時間内に収まる勤務や、法定労働時間内の深夜勤務だけであれば、通常は36協定の対象ではありません。
また、36協定は残業を無制限に認める制度ではありません。原則となる月45時間・年360時間、特別条項を使う場合の年720時間、時間外労働と法定休日労働の合計が単月100時間未満、2~6か月平均80時間以内などの上限を守る必要があります。
本記事は2026年9月27日時点の厚生労働省・労働局の公表資料を基にしています。個別の勤務制度や協定内容は、所轄労働基準監督署または社会保険労務士へ確認してください。
飲食店が最初に確認する5項目
- 1日8時間または週40時間を超える勤務があるか
- 常時10人未満の店舗に認められる週44時間特例の対象か
- 法定休日に出勤させる可能性があるか
- 一般条項で足りるか、臨時的な事情に備えた特別条項が必要か
- 店舗ごとに適正な過半数代表者を選出しているか
36協定届では、2024年4月1日以降の期間を対象とする届出から、労働保険番号と法人番号の記載が必須とされています。法人番号がない個人事業主は法人番号欄を空欄にし、個人番号(マイナンバー)は記載しません。2026年9月版の厚生労働省資料でも、労働保険番号・法人番号と「会社名+店舗名」まで記載するよう案内されています。厚生労働省「時間外労働や休日労働をさせる場合には『36協定』が必要です」(令和8年9月)
飲食店に36協定が必要になるケース
36協定は、労働基準法第36条に基づき、使用者と労働者代表が時間外労働・休日労働について取り決める労使協定です。原則となる法定労働時間は休憩を除いて1日8時間、1週40時間です。休日は毎週少なくとも1日、または4週間を通じて4日以上与えなければなりません。
この法定労働時間を超えて働かせる場合や、法定休日に働かせる場合は、36協定の締結に加え、所轄労働基準監督署への届出が必要です。36協定を結んだだけで残業を命じる根拠がすべて整うわけではなく、労働契約や就業規則等にも時間外・休日労働を命じられる根拠が必要です。厚生労働省「時間外労働の上限について」
所定労働時間と法定労働時間を分けて考える
店舗がシフトで定めた「所定労働時間」を超えただけで、直ちに36協定が必要になるわけではありません。判断基準は、原則として法定労働時間または法定休日を超えたかどうかです。
| 勤務例 | 36協定 | 実務上の考え方 |
|---|---|---|
| 所定6時間のアルバイトが7時間勤務 | 通常は不要 | 1日8時間以内で、週の法定労働時間も超えない場合。ただし、追加勤務分の通常賃金は必要 |
| 休憩を除く実働が1日8時間30分 | 必要 | 適法な変形労働時間制による場合などを除き、30分が法定時間外労働になる |
| 1日7時間30分を週6日勤務 | 原則必要 | 週45時間となるため、週40時間の事業場では5時間、週44時間特例の事業場でも1時間が法定時間外労働になる |
| 法定休日に仕込みや棚卸しを実施 | 必要 | 営業時間外の作業でも、使用者の指揮命令下で行う仕事は労働時間に該当する |
| 22時以降に勤務したが1日8時間・週40時間以内 | 深夜勤務だけなら通常は不要 | 36協定とは別に、22時から翌5時までの深夜割増賃金が必要 |
| 店舗が定めた休日に出勤 | 状況による | その日が法定休日か、勤務により週の法定労働時間を超えるかを確認する |
36協定が不要な所定外勤務であっても、労働契約や就業規則に反する勤務を一方的に命じられるわけではありません。雇用時の明示事項は、飲食店 労働条件通知書 2026年10月改正|パート・アルバイト雇用の対応チェックリストも確認してください。
常時10人未満の飲食店は「週44時間」の特例を確認
2026年9月27日時点では、常時使用する労働者が10人未満の飲食店など、一定の特例措置対象事業場では、1週の法定労働時間が44時間です。ただし、1日の法定労働時間は8時間のままです。週の合計が44時間以内でも、ある日の実働が9時間なら、適法な変形労働時間制による場合などを除き、1時間の法定時間外労働が発生します。
「10人未満」は会社全体ではなく、原則として店舗などの事業場単位で判断します。正社員だけでなく、パート・アルバイトなども人数の判断から当然に除外されるわけではありません。「その日に出勤した人数」ではなく、常態として何人の労働者を使用しているかを実態に即して確認します。広島労働局「労働条件管理の手引」(令和8年4月)
なお、変形労働時間制の種類によっては週44時間特例を利用できません。例えば、1年単位の変形労働時間制や1週間単位の非定型的変形労働時間制では、原則として週平均40時間以内にする必要があります。週44時間特例と変形労働時間制を安易に組み合わせないようにしてください。
36協定の上限時間と一般条項・特別条項の違い
通常の36協定で定められる法定時間外労働の限度は、原則として月45時間・年360時間です。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制では、原則月42時間・年320時間になります。
| 区分 | 主な上限 | 主な様式 |
|---|---|---|
| 一般条項 | 原則:時間外労働が月45時間・年360時間以内 | 様式第9号 |
| 特別条項付き | 時間外労働が年720時間以内。時間外労働と法定休日労働の合計が単月100時間未満、2~6か月平均80時間以内 | 様式第9号の2 |
| 限度時間を超える月 | 月45時間を超えられるのは年6か月以内 | 特別条項に回数を記載 |
年720時間は法定時間外労働だけの上限です。一方、単月100時間未満と2~6か月平均80時間以内の判定には法定休日労働を含めます。月45時間だけを確認していると、休日出勤を含む上限を見落とすため注意が必要です。厚生労働省「36協定届記載例・上限時間」
特別条項は「忙しい店だから」では使えない
特別条項を適用できるのは、通常予見できない業務量の大幅な増加など、臨時的な特別の事情がある場合に限られます。「人手不足のため」「繁忙時」「売上を増やすため」といった恒常的・抽象的な理由だけでは不十分です。
厚生労働省は、予算・決算業務、商戦に伴う業務の繁忙、納期のひっ迫、大規模なクレーム、機械トラブルなどを例示しています。飲食店であれば、厨房機器の重大な故障や大規模なクレームへの対応などが検討対象になり得ますが、個別事情に応じた具体的な記載が必要です。
通常の週末混雑や慢性的な採用難だけを理由にすることはできません。年末需要についても単に「忘年会シーズンのため」とするのではなく、予約件数が通常の予測を大幅に上回った場合など、臨時性が分かるよう具体化する必要があります。記載の可否は所轄労働基準監督署へ事前に確認してください。
飲食店が36協定を届け出る6つの手順
手順1:店舗ごとに事業場を整理する
36協定は原則として事業場単位で締結します。別住所で営業する複数店舗がある場合、本部で1通作成すれば全店舗に自動適用されるわけではありません。店舗ごとに労働者代表、対象業務、労働者数、延長が必要な時間を確認します。
手順2:過去の勤怠から必要時間を見積もる
シフト表だけでなく、実際の打刻記録を基に、使用者の指示で行う開店前の仕込み、朝礼、着替え、閉店後の清掃、レジ締め、予約確認などを含めて実労働時間を集計します。
協定時間は大きく設定すればよいものではなく、必要最小限にとどめることが求められます。紙の出勤簿や自己申告だけでは把握が難しい場合は、労働時間管理を効率化するタイムカード選び|飲食店向けおすすめ勤怠ツール比較【2025年版】を参考に、客観的な打刻記録を残せる環境を整えましょう。
手順3:過半数代表者を適正に選出する
過半数労働組合がない店舗では、正社員だけでなく、パート・アルバイトを含む労働者の過半数を代表する人を選びます。労働基準法上の管理監督者は代表者になれません。
選出時は「36協定を締結するための労働者代表を選ぶ」ことを明示し、投票、挙手、労働者による話し合い、持ち回り決議など、過半数の支持が明確になる方法を用います。オーナーが店長を指名する、最年長者を自動的に選ぶ、親睦会の代表をそのまま流用するといった選び方では、協定が無効になるおそれがあります。
選出案内、候補者、投票結果、実施日を記録として残しましょう。使用者には、代表者が意見集約などを行えるよう、社内メールや事務スペースを提供するなどの必要な配慮も求められます。厚生労働省「36協定の過半数代表者に関するQ&A」
手順4:一般条項か特別条項かを決める
月45時間・年360時間以内に収まる運用なら、原則として様式第9号を使用します。臨時的な特別の事情により限度時間を超える可能性があり、特別条項の要件を満たす場合は、様式第9号の2を使用します。
特別条項には、限度時間を超える具体的な事情、発動手続、延長時間、回数、割増賃金率、健康福祉確保措置などを記載します。健康福祉確保措置には、医師による面接指導、勤務間インターバル、深夜業の回数制限、健康診断、相談窓口の設置などがあります。
手順5:有効期間が始まる前に届け出る
36協定は、労使で合意しただけでは法定時間外労働・法定休日労働を適法に行わせるための効力が生じません。所轄労働基準監督署へ届け出る必要があり、残業させた後に届け出ても、過去にさかのぼって有効にはなりません。
厚生労働省は有効期間を1年とすることが望ましいと案内しています。賃金締日や事業年度に合わせると、月・年の時間集計を行いやすくなります。
提出前に、労働保険番号、法人番号、会社名と店舗名、起算日、有効期間、協定成立日、必要な確認欄を点検してください。個人事業主は法人番号欄を空欄とし、マイナンバーを記入してはいけません。出雲労働基準監督署「36協定や裁量労働制に関する届出・報告の注意事項」
手順6:電子申請または窓口・郵送で提出し、従業員に周知する
36協定届は、労働条件ポータルサイトの電子申請様式作成支援ツールやe-Govから電子申請できます。窓口持参や郵送での提出も可能です。
複数店舗については、申請方法ごとに定められた条件を満たせば本社一括届出が可能です。ただし、協定は各店舗の実態に即して締結しなければならず、一括届出のためだけに不必要に大きな延長時間を全店舗でそろえることは適切ではありません。
2026年9月5日以降、過去に公開されていた本社一括届出事業場一覧作成ツールは利用できません。保存済みの古いツールを使い回さず、厚生労働省のページから最新版を取得してください。厚生労働省「労働基準法等の規定に基づく届出等の電子申請について」
届出後は、店舗の見やすい場所への備え付け、書面交付、スタッフが常時確認できる電子データなどの方法で周知します。経営者のパソコン内に保存し、従業員が閲覧できない状態では周知になりません。
届出後に必要な残業時間の管理方法
36協定は提出して終わりではありません。閉店作業の延長、予約客の遅れ、欠員対応などが積み重なる飲食店では、少なくとも週1回を目安に、社員・アルバイトごとの労働時間を更新すると上限超過を防ぎやすくなります。
| 管理項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 月の法定時間外労働 | 一般条項または特別条項で定めた時間と比較する |
| 法定休日労働 | 時間外労働と分けて集計する |
| 時間外+法定休日労働 | 単月100時間未満か確認する |
| 2~6か月平均 | すべての対象期間について月平均80時間以内か確認する |
| 年間の時間外労働 | 年360時間または特別条項の年720時間以内か確認する |
| 月45時間超の月数 | 特別条項を使っても年6か月以内か確認する |
| 健康福祉確保措置 | 協定で選んだ措置を実施し、実施日・対象者・内容を記録する |
例えば、時間外労働と法定休日労働の合計が4月70時間、5月82時間なら、2か月平均は76時間です。さらに6月分を加えた3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均も継続して確認します。一つの平均期間だけを確認すればよいわけではありません。
法定上限より手前に社内の警戒ラインを置く
法定上限に近づいてからシフトを変更しても、予約や営業時間の都合で調整できないことがあります。社内ルールの例として、月35時間到達見込みで店長から本部へ報告する、時間外・休日労働の合計が70時間に近づいた段階で予約枠や仕込み分担を見直す、といった警戒ラインを設定すると管理しやすくなります。
月35時間や70時間は法定基準ではなく、上限超過を防ぐための店舗独自の管理例です。
36協定があっても割増賃金は必要
36協定は残業代を免除する制度ではありません。主な法定割増率は次のとおりです。
- 法定時間外労働:25%以上
- 月60時間を超える法定時間外労働:50%以上
- 法定休日労働:35%以上
- 22時から翌5時までの深夜労働:25%以上
法定時間外労働と深夜労働が重なれば50%以上、月60時間を超える法定時間外労働と深夜労働が重なれば75%以上、法定休日労働と深夜労働が重なれば60%以上です。法定休日労働に時間外労働の25%を重ねて60%とするのではなく、深夜割増が重なる場合に60%となります。
また、月60時間を超える法定時間外労働の算定には、法定休日労働は含めません。法定休日ではない休日の勤務が法定時間外労働に当たる場合は算定に含まれます。厚生労働省「早出・残業・休日出勤・深夜労働の割増賃金に関するQ&A」
長時間労働や深夜勤務が続くスタッフは、労働時間だけでなく健康管理も必要です。対象者や実施時期は、飲食店の健康診断義務【2026年版】|アルバイト・深夜勤務・費用・2027年改正で確認できます。
飲食店が陥りやすい36協定の不備
- オーナーが店長を労働者代表に指名する:使用者の意向による指名ではなく、労働者の過半数の支持が分かる方法で選出します。
- 1通の協定を全店舗に流用する:原則として事業場ごとに締結し、各店舗の実態に合った内容にします。
- 有効期間開始後に提出する:届出前の法定時間外労働を後から適法にすることはできません。
- 特別条項の理由を「繁忙時」とだけ書く:臨時的な特別の事情を具体的に限定します。
- 月45時間だけを確認する:法定休日労働を含む単月100時間未満、2~6か月平均80時間以内も確認します。
- 固定残業代があるので上限管理しない:固定残業代の有無と36協定の上限規制は別問題です。
- 協定で定めた時間を超えて働かせる:法律上の上限内でも、協定で定めた時間を超えることはできません。
- 提出済みの協定をスタッフへ見せない:掲示、書面交付、常時閲覧できる電子データなどで周知します。
無届や上限違反には罰則がある
36協定を締結・届出せずに法定時間外労働や法定休日労働をさせた場合や、法律上の上限に違反した場合は、労働基準法違反となる可能性があります。労働基準法では、対象となる違反について6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。
違反があれば直ちに上限の刑罰が科されるという意味ではありませんが、「届出を忘れただけ」「協定はあるが時間を少し超えただけ」で済む問題ではありません。厚生労働省「労働時間の基本的ルールを教えて下さい」
飲食店の36協定に関するFAQ
Q. アルバイトしかいない店舗でも必要ですか?
必要になる場合があります。雇用形態ではなく、法定労働時間を超える勤務や法定休日労働をさせるかどうかで判断します。短時間シフトのアルバイトでも、複数日の勤務を合計して週の法定労働時間を超える場合があります。
Q. 常時10人未満なら、1日9時間働かせても週44時間以内なら問題ありませんか?
原則として問題があります。週44時間特例の対象でも、1日の法定労働時間は8時間です。適法な変形労働時間制による場合などを除き、8時間を超える部分には36協定と割増賃金が必要です。
Q. 店長は労働者代表になれますか?
「店長」という肩書だけで一律には決まりませんが、労働基準法上の管理監督者に該当する人は代表者になれません。管理監督者に該当しない店長でも、経営者が指名して選ぶことはできません。実際の権限・待遇・勤務実態と、選出方法の両方を確認してください。
Q. 急な欠員で1日だけ8時間を超えた後に届け出てもよいですか?
36協定は事前の締結・届出が必要であり、事後提出で過去にさかのぼって有効にはなりません。少しでも法定時間外労働が見込まれる場合は、実際に残業を命じる前に手続を済ませます。
Q. 36協定を結べば、従業員は必ず残業しなければなりませんか?
36協定だけで、従業員に残業義務が生じるわけではありません。36協定は法定時間外労働・法定休日労働についての労働基準法上の免罰効果を持つものであり、残業を命じるには労働契約や就業規則等の根拠も必要です。
Q. 36協定を結べば、シフトは何時間でも組めますか?
組めません。36協定で定めた時間、法律上の上限、休憩・休日、年少者や育児・介護中の労働者等に関する制限を守る必要があります。有給休暇の取得管理については、飲食店のシフト制アルバイトの有給休暇【2026年版】|付与日数・賃金・年5日義務も確認してください。
まとめ:飲食店の36協定は店舗単位で事前に整える
飲食店の36協定で重要なのは、書類を提出することだけではありません。まず自店の法定労働時間が週40時間か44時間か、変形労働時間制を導入しているかを確認し、店舗ごとに適正な労働者代表を選びます。
そのうえで実態に合った延長時間を設定し、有効期間の開始前に届け出てください。届出後も、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働を分けて集計し、月・複数月・年の上限を継続的に管理する必要があります。
- 残業・法定休日労働の可能性を確認した
- 週40時間、週44時間特例、変形労働時間制を区別した
- パート・アルバイトを含めて代表者を適正に選出した
- 一般条項と特別条項を適切に選んだ
- 労働保険番号・法人番号・店舗名を確認した
- 有効期間開始前に届け出た
- 届出後にスタッフへ周知した
- 時間外、法定休日、深夜労働を分けて集計している
- 単月・複数月平均・年間上限を確認している
36協定の要否や特別条項の記載に迷う場合は、所轄労働基準監督署の労働時間相談・支援コーナー、働き方改革推進支援センター、社会保険労務士へ相談しましょう。

