導入:立地ごとの売上目安を把握することが飲食店経営の第一歩
「この立地で、どれくらい売上を出せれば合格ラインなのか?」
これは開業予定者だけでなく、既存店経営者にとっても重要なテーマです。なぜなら、
- 立地と家賃が売上構造を左右する
- 想定客単価と回転率が地域で異なる
- 損益分岐を見誤ると黒字でも倒産する
など、立地に合わせた目標売上の設計を間違えると、どれだけ努力しても「なんとなく利益が出ない…」という状態に陥ってしまうからです。
本記事では、都心一等地から住宅街・郊外ロードサイドまで、立地別に想定される「客単価」「月商」「必要集客数」などを一覧形式で解説し、飲食店経営における売上設計の正しい考え方を提供します。
背景:売上目標が“なんとなくの感覚”で決まっていないか?
飲食店の現場では、次のような誤解が多く見られます。
- 「坪単価1万円以上なら黒字」
- 「1日100人来れば何とかなる」
- 「うちのランチ客単価は900円だから大丈夫」
…しかし、**「場所によってその基準はまるで違う」**という前提を無視してはいけません。
店舗の立地や家賃水準、通行量、回転率によって、求められる売上水準は大きく異なります。
実践ステップ:立地別の客単価と売上目安の正しい設計方法
ステップ1:まずは自店の立地を分類する
飲食店の立地は、以下の5パターンに大別されます。
区分 | 特徴 |
---|---|
① 都心一等地(例:銀座・新宿・渋谷など) | 高家賃・観光/ビジネス需要・競合多 |
② ビジネス街(例:八重洲・新橋・丸の内) | 昼メイン・ランチ回転勝負・平日偏重 |
③ 住宅街(例:中野・三軒茶屋・赤羽など) | 常連比率高・夜主体・週末勝負 |
④ 郊外ロードサイド(例:埼玉・千葉の国道沿い) | 車移動前提・駐車場必須・高回転 |
⑤ 観光地・リゾートエリア(例:鎌倉・軽井沢) | シーズン変動あり・単価勝負 |
ステップ2:立地ごとの「目標売上目安」と「必要集客数」
以下に各立地の目安を一覧でまとめます(※20坪=約66㎡想定)
立地分類 | 想定客単価 | 月間必要売上 | 平均日商 | 月間必要客数 | 1日あたり |
---|---|---|---|---|---|
都心一等地 | ¥2,500 | ¥4,000,000 | ¥133,000 | 1,600人 | 約53人 |
ビジネス街 | ¥1,200 | ¥2,800,000 | ¥93,000 | 2,333人 | 約78人 |
住宅街 | ¥1,800 | ¥2,400,000 | ¥80,000 | 1,333人 | 約45人 |
郊外ロードサイド | ¥1,200 | ¥2,000,000 | ¥67,000 | 1,667人 | 約55人 |
観光地 | ¥3,000 | ¥3,600,000 | ¥120,000 | 1,200人 | 約40人 |
※想定家賃比率:10〜12%
※客単価は料理+ドリンク+平均滞在時間込み
各立地の売上設計のポイントと注意点
① 都心一等地のケース
- 家賃が高く、月額60〜80万円前後になることも
- 観光客×高単価路線で利益を取りやすいが、人件費も高騰
- 店舗内装やブランディングが生命線
👉 参考:高単価でも選ばれる焼肉店のブランド設計
② ビジネス街立地のケース
- 昼ピーク勝負。11:30〜13:30が全売上の6割になることも
- ランチ単価1,000〜1,200円で高回転が前提
- 土日は売上が落ちるため、平日集中の業態設計が必要
👉 参考:飲食店がインフルエンサーを活用する集客法|成功事例と失敗回避のコツ
③ 住宅街のケース
- ファミリーや常連に支えられる夜営業型が安定
- 客単価は1,800〜2,500円がボリュームゾーン
- 内装や居心地の良さ、接客力が差別化ポイント
④ 郊外ロードサイドのケース
- 「集客」ではなく「来店率と回転率」勝負
- 車での来店前提。駐車場の有無=売上の生命線
- 店舗面積が広くても坪単価で稼ぎにくいため、回転率3回転以上が目標
⑤ 観光地のケース
- 単価で稼ぎ、シーズン変動に備えて利益率重視
- 通常月は赤字でも“繁忙期で一気に取り返す”戦略
- 土産化・テイクアウト販売が成否を左右する
👉 参考:SNSで話題化するキャンペーンの作り方【飲食店向け】
売上目安の正確な計算方法(家賃・人件費・利益から逆算)
損益分岐点売上高は以下の式で求められます。
損益分岐点売上 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
例:都心一等地での想定
- 家賃:80万円
- 人件費:150万円
- 水道光熱・その他:70万円
- 粗利率:70%(食材原価30%)
→固定費:300万円 ÷ (1−0.3) = 約430万円が最低ライン
よくある質問
Q. 客単価はどう設定すればいい?
→「自店の立地で、想定できる1日平均集客数」と「回転率」から逆算するのがベストです。
Q. 家賃比率はどのくらいが適正?
→都心:10%以下、郊外:6〜8%が理想。※固定費比率全体で25〜30%以内に抑えるのが安全圏です。
Q. スタッフの人件費はどこまでかけてよい?
→月商の25〜30%が一般的ですが、「少人数オペレーション」と「効率化ツール」で削減余地があります。
まとめ:立地ごとの“現実的な売上ライン”を把握することが黒字経営の第一歩
最後にポイントを整理します。
- 【立地別に売上目標は大きく異なる】
- 【単価×客数×回転数で算出しよう】
- 【家賃比率・損益分岐から逆算して判断】
- 【立地に合った業態選定が最優先】
“なんとなく”で決めた目標は、必ずブレます。
“数値に裏打ちされた目標”こそ、スタッフの指標にもなり、店舗成長の土台になります。
ぜひ、この記事を店舗経営の売上設計の基準としてご活用ください。
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