結論からいうと、一般的な飲食店のHACCP対応では、複雑な危害分析表を一から作る必要はありません。厚生労働省が内容を確認した「小規模な一般飲食店事業者向け」の手引書を使い、次の4点を自店の営業内容に合わせて運用することが基本です。
- 一般的な衛生管理の計画を作る
- メニューを調理工程別の3グループに分類する
- 計画どおりに実施し、営業日の結果を記録する
- 記録を定期的に振り返り、計画を見直す
2026年10月13日時点では、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められています。制度は2021年6月1日に完全施行されました。飲食店営業や喫茶店営業など、食品を調理する営業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となり、業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書を利用できます。出典:厚生労働省「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」
この記事では、開業予定者と既存店の経営者に向けて、飲食店のHACCP衛生管理計画の作り方、メニュー分類、異常時対応、記録、保存期間、保健所対応までを実務順に解説します。
飲食店のHACCPで必要になるもの
食品衛生法施行規則第66条の2第3項では、営業者に対して、衛生管理計画の作成と周知、必要に応じた手順書の作成、実施状況の記録・保存、計画と手順書の検証・見直しを求めています。
| 必要なもの | 主な内容 | 実施時期 |
|---|---|---|
| 一般的な衛生管理の計画 | 原材料の受入れ、庫内温度、交差汚染、器具、トイレ、健康管理、手洗い | 開業前に作成し、変更時に見直す |
| 重要管理の計画 | メニューを調理工程別に分類し、確認方法と異常時対応を決める | 販売開始前に作成する |
| 必要に応じた手順書 | 洗浄、消毒、温度確認、体調不良者への対応などの具体的な手順 | 口頭説明だけでは統一できない作業について作成する |
| 日々の実施記録 | 確認結果、庫内温度、異常の内容、返品・再加熱・提供中止などの処置 | 営業した日に記録する |
| 振り返り記録 | 記録漏れ、異常の反復、クレーム、従業員・設備・メニューの変更 | 1カ月ごとなど定期的に行う |
| 連絡先一覧 | 管轄保健所、仕入先、設備業者、店舗責任者 | 開業前に作成し、変更時に更新する |
HACCPに沿った衛生管理を行うために、一般の飲食店が第三者認証を取得する必要はありません。また、食品衛生責任者または食品衛生管理者とは別に、新たな「HACCP有資格者」を置く義務もありません。ただし、衛生管理計画を作成しない、計画を守らない、改善指導に従わないといった場合には、行政処分につながることがあります。出典:厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」
飲食店のHACCP衛生管理計画を作る5つの手順
手順1.自店の業態に合う手引書を選ぶ
レストラン、居酒屋、定食店、カフェ、ラーメン店など、店内で調理して利用客に提供する一般的な飲食店は、厚生労働省掲載の「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」を基本にできます。
2026年10月13日時点で掲載されている詳細版は、2024年1月15日改訂の第3版です。出典:厚生労働省掲載「小規模な一般飲食店事業者向け手引書」
ただし、菓子、パン、そうざい、食肉製品などを製造して他店へ卸す場合や、セントラルキッチンとして複数店舗へ配送する場合は、一般飲食店向け手引書だけでは不足する可能性があります。営業許可・届出の種類と実際の製造工程を整理し、該当する業種別手引書を確認してください。
手順2.提供するメニューをすべて一覧化する
グランドメニューだけでなく、次の商品も含めて一覧にします。
- ランチ限定、季節限定、日替わりメニュー
- コース料理の前菜、付け合わせ、ソース
- 作り置きするカレー、スープ、煮物
- テイクアウト・デリバリー商品
- 低温調理品、真空包装品
- 店内で仕込み、翌日以降に再加熱する料理
商品名ではなく、実際の調理工程を確認することが重要です。同じカレーでも、調理後すぐ提供する場合と、冷却して翌日に再加熱する場合では管理方法が異なります。
持ち帰り商品の表示については、別途飲食店 テイクアウト 食品表示【2026年版】|店内調理・作り置き・セントラルキッチン別のラベル実務も確認してください。
手順3.一般的な衛生管理の7項目を決める
一般飲食店向け手引書では、衛生管理計画の共通項目を次の7項目に整理しています。
| 管理項目 | 確認方法の例 | 問題があった場合の例 |
|---|---|---|
| 原材料の受入れ | 納品時に外観、におい、包装、期限、保存方法、必要に応じて品温を確認 | 受入れを中止し、返品・交換する |
| 冷蔵・冷凍庫の温度 | 始業前など、決めた時刻に庫内温度を確認 | 再測定、設定調整、修理依頼を行い、食材の状態に応じて使用を中止する |
| 交差汚染・二次汚染の防止 | 生肉・生魚をふた付き容器に入れ、器具を用途別に使い分ける | 汚染された可能性がある食品は、加熱するか使用しない |
| 器具等の洗浄・消毒・殺菌 | 使用後や作業切替時に洗浄し、必要な消毒・殺菌を行う | 汚れや洗剤が残っていれば、再洗浄・すすぎ・消毒を行う |
| トイレの洗浄・消毒 | 便座、水洗レバー、手すり、ドアノブなどを決めた頻度で清掃する | 汚れを確認した時点で再洗浄・消毒する |
| 従業員の健康・服装管理 | 始業前や作業中に下痢、嘔吐、手指の傷、作業着などを確認 | 下痢・嘔吐などがある人を食品に直接触れる業務に従事させず、受診を促す |
| 衛生的な手洗い | 入店時、トイレ後、盛付け前、作業変更時、生肉・生魚や金銭を扱った後などに実施 | 不足を確認したら、直ちに手洗いをやり直す |
計画には、各項目について「いつ」「どのように確認するか」「問題があったときにどうするか」を記載します。「衛生的に管理する」のような抽象的な表現だけでは、従業員ごとに判断が変わってしまいます。
一般飲食店向け手引書の記載例では、庫内温度を冷蔵庫10℃以下、冷凍庫-15℃以下としています。ただし、食品の表示、仕入先の指定、自店の品質基準、自治体からの指導により、さらに低い温度での保管が必要な場合は、厳しい方の条件を採用してください。
また、中心温度計や庫内温度計は、設置するだけでなく定期的に精度を点検します。手引書では、重要管理に使用する温度計について月1回などの定期点検例も示されています。
井戸水や受水槽を使用する店舗は、飲食店 水質検査【2026年版】|井戸水・受水槽・水道直結の頻度とPFAS対応も併せて確認しましょう。
手順4.異常時の処置を具体的に決める
「問題があれば責任者へ報告する」だけでは不十分です。報告後に何をするかまで決めます。
- 納品物の包装破損、異臭、期限切れなどがあれば、受入れを中止して返品する
- 加熱不足なら追加加熱し、再確認する
- 安全な加熱・冷却履歴を確認できなければ、提供を中止する
- 冷蔵庫の温度異常時は、原因を確認し、食材の温度や経過時間に応じて使用を中止する
- 器具の破損時は使用を止め、破片が食品へ混入していないか確認する
- 下痢や嘔吐のある従業員を、直接食品を扱う業務に従事させない
- 異常の内容、処置、再確認結果を記録する
店内で嘔吐が発生した場合は、通常清掃とは異なる隔離・消毒・廃棄手順が必要です。飲食店の嘔吐物処理マニュアル【2026年版】|ノロウイルス対策・消毒・営業再開を参考に、店舗の手順書へ組み込んでください。
手順5.担当者と見直し条件を決める
特定の店長だけが計画を理解している状態では、店長不在時に運用できません。個人名ではなく、役割で担当を決めると引き継ぎやすくなります。
- 開店担当:庫内温度、体調、手洗い設備を確認する
- 納品担当:受入れ状態を確認する
- 調理担当:加熱、保温、冷却条件を確認する
- 締め担当:記録漏れを確認する
- 店長・責任者:週次確認と毎月の振り返りを行う
次のような変更があった場合は、衛生管理計画を見直します。
- 新メニューや低温調理を導入した
- テイクアウトやデリバリーを始めた
- 原材料、仕入先、調理工程を変更した
- 冷蔵庫、加熱機器、冷却設備を入れ替えた
- 従業員や調理担当者が交代した
- 同じ異常やクレームが繰り返された
- 保健所から指導・助言を受けた
重要管理はメニューを3グループに分ける
一般飲食店向け手引書では、調理中の加熱・冷却・保存の温度帯に着目し、メニューを次の3グループに分類します。常温で安全に保管できる食品は、原則としてこの分類の対象外です。
| 分類 | メニュー例 | 主な確認方法 | 問題があった場合 |
|---|---|---|---|
| 第1グループ 非加熱のもの |
刺身、冷奴、生野菜サラダ | 適切な冷蔵保管、提供直前の取り出し、器具の使い分け | 冷たくないなど保管状態に問題があれば提供しない。可能な食材は加熱用へ変更する |
| 第2グループ 加熱し、熱いまま提供 |
ハンバーグ、焼き鳥、唐揚げ、焼き魚 | 火力、時間、外観、肉汁、弾力、中心温度など、商品ごとに決めた方法で確認 | 加熱を延長して再確認する。安全を確認できなければ提供しない |
| 第2グループ 加熱後に高温保管 |
炊飯米、スープ、揚げ物 | 保温機器の温度、投入時刻、保管時間を確認 | 高温保管できていない時間が長い、または経過時間が不明なら提供しない |
| 第3グループ 加熱後に冷却・再加熱 |
カレー、シチュー、スープ、ソース | 小分け、冷却開始時刻、冷却後温度、再加熱状態を確認 | 決めた条件で冷却できなければ提供しない。再加熱不足なら加熱を延長する |
| 第3グループ 加熱後に冷却し、冷たいまま提供 |
ポテトサラダ、蒸し鶏、加熱済み具材の前菜 | 加熱条件、冷却条件、冷蔵保管、盛付け時の二次汚染防止 | 加熱・冷却履歴を確認できなければ提供しない |
冷却条件の決め方
手引書は、速やかな冷却の記載例として「2時間以内に20℃以下」を示しています。これは一般飲食店向け手引書上の例であり、すべての料理に一律適用される法定数値という意味ではありません。
料理の量、厚さ、容器、冷却設備を踏まえ、自店で再現できる方法を決めます。寸胴鍋のまま長時間室温に置くのではなく、浅い容器への小分け、氷水、かくはん、急速冷却機などを使用し、危険温度帯に長くとどまらないようにします。
食肉の加熱条件
食肉の加熱は、中心部75℃で1分間以上、または同等以上の加熱効果を有する条件が基本的な目安です。特にハンバーグなどの挽肉、テンダライズ処理、タンブリング処理、結着処理をした肉は、表面の細菌が内部へ入り込む可能性があるため、中心部まで加熱します。出典:厚生労働省「腸管出血性大腸菌Q&A」
低温調理では、調理器の表示温度ではなく、食肉の中心部が目標温度に達してから必要時間を維持します。食品安全委員会は、一般的な飲食店で低温調理する場合の例として、中心温度63℃で30分、70℃で3分、75℃で1分の加熱を示しています。肉の種類、厚さ、重量によって中心温度の上昇時間は変わるため、中心温度計と時間で管理してください。出典:内閣府食品安全委員会「肉を低温で安全においしく調理するコツ」
日々の記録を形骸化させない方法
記録は、閉店後に記憶だけでまとめて書くのではなく、確認作業と結び付けます。
- 開店前:庫内温度、従業員の体調、手洗い設備、器具の状態を確認する
- 納品時:外観、におい、包装、期限、保存条件、必要に応じて品温を確認する
- 調理中:計画に定めた加熱、保温、冷却条件を確認する
- 異常時:「否」に印を付け、異常の内容、処置、再確認結果を書く
- 営業終了時:一般衛生管理と重要管理の記入漏れを確認する
- 週1回程度:可能であれば、実施者とは別の責任者が記録と処置を確認する
- 月1回程度:異常、クレーム、設備不良、教育不足が繰り返されていないか振り返る
すべての料理について毎回、詳細な温度数値を記録しなければならないという意味ではありません。自店の計画で定めた確認方法を実施し、1日の結果と、問題があった場合の内容・処置を記録します。
例えば、「冷蔵庫15℃」だけで終わらず、「扉の閉鎖を確認し、20分後に10℃。食材の状態を確認」と残せば、異常への対応経過を説明できます。
HACCP記録の保存期間は何年か
食品衛生法施行規則は、記録の保存期間について、取り扱う食品が使用または消費されるまでの期間を踏まえ、合理的に設定するよう求めています。法律上、すべての飲食店に一律で「1年間」と定めているわけではありません。
一方、小規模な一般飲食店事業者向け手引書は、一連の記録を1年間程度保管するよう示しています。そのため、一般的な飲食店では1年間程度を店舗基準とし、長期保存品を扱う場合や自治体から別の指導を受けた場合は延長するのが実務的です。
紙でも電子データでも保存できます。保健所の食品衛生監視員から求められた際に、速やかに提示できる状態にしておきましょう。
厚生労働省のHACCP記録アプリも利用できる
厚生労働省は2026年6月5日、一般飲食店事業者向けの「HACCP衛生管理記録アプリ」の本格運用を開始しました。小規模な一般飲食店向け手引書に対応し、衛生管理計画、日々の実施記録、毎月の振り返りをスマートフォンまたはタブレットで行えます。出典:厚生労働省「HACCP衛生管理記録アプリの公開について」
アプリは記録作業を補助するツールです。導入するだけでHACCP対応が完了するわけではありません。自店のメニュー分類、確認方法、異常時対応を設定し、実際に記録と振り返りを続ける必要があります。
設定やデータ保存の注意点は、飲食店 HACCP記録アプリ導入ガイド|厚生労働省公式アプリの設定・運用・CSV保存で確認してください。
開業前・既存店で使えるチェックリスト
- □ 店舗の営業許可・届出と業務範囲を整理した
- □ 厚生労働省が内容を確認した該当手引書を選んだ
- □ 季節商品、テイクアウトを含む全メニューを一覧化した
- □ メニューを非加熱、加熱、高温保管、冷却・再加熱の工程で整理した
- □ 一般的な衛生管理7項目の確認時期と方法を決めた
- □ 返品、追加加熱、提供中止、使用中止などの異常時対応を決めた
- □ 冷蔵庫・冷凍庫に見やすい温度計を設置した
- □ 加熱確認が必要な商品用に中心温度計を準備した
- □ 温度計の点検方法と頻度を決めた
- □ 記録担当者と確認者を決めた
- □ 新人を含む従業員へ計画を説明した
- □ 紙またはアプリで試行し、営業中に記録できるか確認した
- □ 保健所、仕入先、設備業者の連絡先をまとめた
食物アレルギーの情報提供や交差接触対策については、飲食店 食物アレルギー対応マニュアル【2026年版】|29品目・表示・接客・緊急時も確認してください。
飲食店のHACCPで起こりやすい失敗
ひな形を修正せずに保管している
自店にないメニューが記載され、自店で行う低温調理や作り置きが抜けていれば、実際の衛生管理計画として機能しません。ひな形は必ず自店のメニューと工程に合わせて修正します。
温度異常があっても「良」と記録している
異常が発生したことよりも、異常を隠して処置を残さないことが問題です。「否」と処置を正確に記録し、再発防止につなげます。
商品名だけで分類している
同じ商品でも、当日調理してすぐ提供する場合と、前日に調理・冷却して翌日に再加熱する場合では管理が異なります。商品名ではなく、実際の調理工程で分類してください。
新メニュー導入後も計画を更新していない
低温調理、真空包装、テイクアウト、デリバリー、作り置きを始めると、温度帯や提供までの時間が変わります。販売開始前に計画と記録欄を更新します。
店長しか内容を説明できない
アルバイトを含む調理従事者が「何を確認し、問題があればどうするか」を説明できる状態が必要です。計画書や手順書は事務所にしまわず、確認作業を行う場所の近くに配置しましょう。
飲食店HACCPのよくある質問
Q.個人経営や一人営業の店も必要ですか?
必要です。事業規模にかかわらず、飲食店営業は原則としてHACCPに沿った衛生管理の対象です。一人営業でも、計画、実施、記録、振り返りを行います。
Q.HACCP認証を取らなければ営業できませんか?
一般的な飲食店に、第三者認証の取得が一律に義務付けられているわけではありません。法令上重要なのは、自店に合う衛生管理計画を作り、実施・記録・見直しを継続することです。
Q.衛生管理計画を保健所へ提出しますか?
衛生管理計画は、法令上一律の営業許可申請書類ではありません。通常は店舗で運用・保管し、定期的な立入検査や営業許可の更新時などに求められた場合、提示できるようにします。自治体独自の確認方法がある場合は、管轄保健所の案内を優先してください。
Q.記録を忘れた日は、後から書いてもよいですか?
実際に確認していない内容を推測で記入してはいけません。記録できなかった事実と理由を残し、担当者、確認時刻、アラーム設定などの再発防止策を決めます。
Q.食中毒の疑いがある連絡を受けたらどうしますか?
医師から食中毒の疑いを指摘された健康被害や、健康被害につながるおそれを否定できない異味・異臭・異物混入などの情報を受けた場合は、管轄保健所へ速やかに連絡します。該当する衛生記録、仕入記録、提供日時、メニュー、従業員の健康記録などを確認し、保健所の調査に対応できるようにしてください。
まとめ
飲食店のHACCP衛生管理計画は、立派な書類を作ることではなく、現場で確認、処置、記録、見直しを継続できる仕組みを作ることが目的です。
まずは厚生労働省掲載の手引書を使い、一般的な衛生管理の7項目と、メニューを3グループに分けた重要管理を作成します。そのうえで、異常時の処置、記録担当者、週次確認、毎月の振り返りを決めてください。
記録は手引書の目安に沿って1年間程度保管し、メニュー、原材料、仕入先、設備、従業員が変わったときは計画を更新します。この流れを営業のルーティンに組み込むことが、形骸化を防ぐ最も重要なポイントです。

