飲食店 HACCP記録アプリ導入ガイド|厚生労働省公式アプリの設定・運用・CSV保存

飲食店のHACCP記録アプリと温度計を使って衛生管理を行う清潔な厨房
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結論から言うと、小規模な一般飲食店がHACCPの記録を紙からデジタルへ切り替えるなら、2026年6月5日に本格運用が始まった厚生労働省の「HACCP衛生管理記録アプリ」は有力な選択肢です。衛生管理計画の作成、日々の実施記録、毎月の振り返りをスマートフォンやタブレットで行えます。

ただし、アプリをインストールするだけでHACCP対応が完了するわけではありません。初期設定の記入例を自店の設備や調理工程に合わせて修正し、実際に確認した時点で記録し、問題があった場合は対処内容まで残す必要があります。

また、入力データは端末内に保存され、クラウドへ自動同期されません。実務では、次の5点を導入条件にすると運用が安定します。

  • 自店の設備とメニューに合わせて衛生管理計画を修正する
  • 記録元となる店舗端末を決める
  • 開店前・調理中・閉店時の担当者を決める
  • 「否」の理由と実施した対処を記録する
  • 毎月CSVを出力し、別の保存先へバックアップする

本記事では、2026年8月25日時点の厚生労働省資料を基に、飲食店での設定手順、日次・月次運用、データ保存方法、導入時の注意点を解説します。

目次

飲食店向けHACCP記録アプリとは

厚生労働省の「HACCP衛生管理記録アプリ」は、小規模な一般飲食店向けの手引書に対応したスマートフォン・タブレット専用アプリです。2026年6月5日に本格的な運用が始まりました。

アプリで行える主な作業は次の3つです。

  • 一般衛生管理と重要管理のポイントを設定し、衛生管理計画を作成する
  • 日々の実施状況と庫内温度などを記録する
  • 毎月の振り返りを行い、計画や実施方法を見直す

iPhone・iPad版とAndroid版があり、厚生労働省のアプリ案内ページから各ストアへ移動できます。パソコン専用版はありませんが、計画や記録をCSVファイルで出力し、パソコンなどで保管できます。

飲食店にHACCPの計画・記録が必要な理由

HACCPに沿った衛生管理は、2021年6月1日から原則としてすべての食品等事業者を対象に完全施行されています。一般的な小規模飲食店は、業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書を参考に「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を行います。

食品衛生法施行規則第66条の2は、営業者に対し、衛生管理計画の作成と関係者への周知、実施状況の記録・保存、計画や手順書の検証・見直しを求めています。したがって、重要なのはアプリの導入そのものではなく、自店の計画に基づいて確認・記録・改善を続けることです。

開業時には、HACCPの準備に加えて営業許可や食品衛生責任者などの確認も必要です。全体の準備は、開業前にやるべき「許認可手続き」チェックリストと、飲食店開業に必要な資格と取得の流れもあわせて確認してください。個別の要件は、必ず管轄保健所や消防署などの行政窓口へ確認しましょう。

公式アプリが向く店舗・向かない店舗

公式アプリは、小規模店が紙の衛生管理表を一台の端末へまとめる用途に適しています。一方、クラウドを使った多店舗管理や温度センサーとの自動連携を求める場合は、別のサービスも比較する必要があります。

店舗の状況 適合度 判断理由
個人経営の小規模飲食店 高い 手引書に沿った計画・日次記録・月次振り返りを一台で管理できる
これから開業する店舗 高い 記入例を参考に、営業開始前から衛生管理計画を作成できる
紙の記録表を紛失しやすい店舗 高い 計画と記録を同じアプリ内で管理できる
深夜まで営業する店舗 比較的高い 実施記録における日の区切り時間を設定できる
冷蔵庫・冷凍庫が合計6台以上ある店舗 要検討 アプリで温度管理対象として設定できるのは合計5台まで
複数店舗を本部でリアルタイム管理したい企業 低い クラウド保存や自動同期の機能がない
温度センサーから自動取得したい店舗 低い 外部システムとの自動連携機能がなく、庫内温度は手入力が基本となる

アプリのプライバシーポリシーによると、入力情報は利用端末内にのみ保存され、外部サーバーへ自動送信されません。クラウド保存機能や外部システムとの自動連携機能もありません。

多店舗企業で利用する場合は、各店で記録元となる端末を決め、月次でCSVを本部へ提出する方法が運用例となります。全店舗の状況を即時に確認する必要がある場合は、民間のクラウド型衛生管理サービスと比較してから決めましょう。

HACCP記録アプリの初期設定手順

導入時に最も重要なのは、初期設定の記入例をそのまま使わないことです。記入例は参考資料であり、自店の設備、営業時間、メニュー、調理方法、担当者に合わせて修正します。

手順1:記録元となる端末を決める

店舗所有のスマートフォンまたはタブレットがある場合は、それを記録元として使う方法が安全です。個人端末だけで運用すると、担当者の退職、異動、機種変更、故障、アプリ削除などで記録へアクセスできなくなるおそれがあります。

店舗端末を使う場合は、次のルールを決めてください。

  • 端末の保管場所と充電場所
  • 画面ロックと解除情報の管理者
  • 持ち出しの可否
  • アプリを削除できる権限
  • CSV出力を行う担当者

私物端末を使わざるを得ない場合は、退職・機種変更時の引継ぎ方法と、月次バックアップの責任者を事前に決めておきます。

手順2:一般衛生管理の7項目を自店用に修正する

アプリの一般衛生管理には、次の7項目が用意されています。

  1. 原材料の受入れ確認
  2. 冷蔵庫・冷凍庫の庫内温度確認
  3. 交差汚染・二次汚染の防止
  4. 器具等の洗浄・消毒・殺菌
  5. トイレの洗浄・消毒
  6. 従業員の健康管理等
  7. 手洗いの実施

各項目について、「いつ確認するか」「どのように確認するか」「問題があったときにどうするか」を登録します。

例えば庫内温度であれば、「開店前に温度計で確認する」「基準を外れた場合は再測定し、扉の閉め忘れ、設定温度、機器の作動状態を確認する」「食材の状態に応じて別の冷蔵庫へ移動する、使用しない、必要な加熱を行う」といったように、現場で実行できる内容にします。

小規模な一般飲食店向け手引書では、庫内温度の確認例として冷蔵10℃以下、冷凍マイナス15℃以下が示されています。ただし、食品の表示や個別の規格基準、社内基準などでより厳しい温度管理が必要な場合は、そちらに従ってください。

アプリで登録できる冷蔵庫・冷凍庫は合計5台までで、設定した台数分が日々の温度入力対象になります。

手順3:メニューを調理工程別の3グループに分ける

重要管理のポイントでは、加熱、冷却、保存などの温度帯に着目し、代表的なメニューを3グループに分類します。

グループ 調理工程 メニュー例
第1グループ 非加熱のもの、冷蔵品を冷たいまま提供するもの 刺身、冷奴、非加熱のサラダなど
第2グループ 加熱し、熱いまま提供するもの 焼き魚、唐揚げ、ハンバーグなど
第3グループ 加熱後に冷却するもの。再加熱して提供するものと、冷たいまま提供するものを含む カレー、スープ、ソース、ポテトサラダなど

料理名だけで分類せず、実際の工程で判断してください。同じカレーでも、調理後すぐに提供する場合と、冷却・保存した後に再加熱する場合では管理方法が異なります。

低温調理、加熱後の冷却、再加熱など判断が難しい工程がある場合は、手引書の例だけで独自判断せず、管轄保健所や食品衛生責任者へ確認しましょう。

手順4:チェック者と日の区切り時間を設定する

チェック者は3名まで事前登録できます。また、チェック者とは別の担当者が記録を確認する場合は、「確認者」欄を必須入力に設定できます。

日付が変わった後も営業や閉店作業を続ける店舗では、「日の区切り時間」を設定します。例えば、閉店後の作業が午前2時まで続く場合は、午前2時までを前営業日の記録として扱う設定が可能です。

ただし、確認者を必須にするだけでは衛生管理の質は上がりません。「誰が確認者になるか」「何を見て承認するか」「否や未入力があった場合にどうするか」まで決めてください。

手順5:営業開始前に1日分をテスト入力する

本番運用の前に、開店から閉店までの流れを想定して1日分をテスト入力します。

  • すべての冷蔵庫・冷凍庫を入力できるか
  • 代表メニューが正しいグループに登録されているか
  • 開店担当、調理担当、閉店担当の分担が明確か
  • 「否」を選んだときに理由と対処を入力できるか
  • 休業日の登録方法を理解しているか
  • CSVを出力し、別の端末やパソコンで開けるか

新人教育へ組み込む場合は、バイトの初出勤マニュアルに入れるべきこととあわせ、初出勤時に端末の置き場所、入力するタイミング、異常時の報告先を説明してください。

記録を形骸化させない日次・月次運用

HACCP記録の目的は空欄を埋めることではなく、決めた方法を実施し、異常を発見したら対処し、その結果を残すことです。実際には確認していないのに「良」をまとめて入力する運用では、衛生管理として機能しません。

タイミング 主な確認・記録 担当例
納品時 外観、におい、包装、期限、保存方法、必要に応じた温度帯 納品対応者
開店前 庫内温度、従業員の体調、トイレ、手洗い環境 開店責任者
調理中 交差汚染防止、加熱状態、冷却・再加熱工程 調理担当者
閉店時 器具の洗浄・消毒、入力漏れ 閉店責任者
週1回 「否」、特記事項、未入力日、同じ異常の再発 店長・食品衛生責任者
月1回 毎月の振り返り、計画の見直し、CSV出力 店長・経営者

「否」を選んだら原因と対処まで記録する

アプリで「否」を選ぶと、特記事項欄が赤枠で表示されます。特記事項には、異常の内容だけでなく、確認した原因と実施した対処を記録します。

例えば庫内温度が自店の基準を外れていた場合は、次の情報を残すと状況を追いやすくなります。

  • 最初に確認した温度と再測定した温度
  • 扉の閉め忘れ、詰め込みすぎ、設定ミス、機器異常の有無
  • 対象食材の状態と、移動・廃棄・加熱などの対応
  • 責任者へ報告した時刻と担当者
  • 修理依頼や再発防止策の有無

異常時の対応を店舗マニュアルへ反映する方法は、トラブルを未然に防ぐマニュアル整備法も参考にしてください。

後回し入力を前提にしない

日々の記録は2日前までさかのぼって入力できますが、2日を過ぎると各項目の記録はできません。特記事項は後から追記できますが、基本の良・否を何日分もまとめて入力する運用には適していません。

開店前確認は開店担当、調理工程は調理担当、閉店確認は閉店責任者というように、既存業務と入力をセットにします。店長が閉店後に一人で一日分を思い出して入力する仕組みは避けましょう。

毎月の振り返りで見るポイント

アプリの全体マニュアルでは、毎月10日までを目安に前月分の振り返りを行う運用が示されています。振り返りでは、単に「問題なし」とするのではなく、次の点を確認します。

  • 未入力日や入力途中の記録がないか
  • 「否」が発生した項目と対処内容
  • 同じ異常が繰り返されていないか
  • 新メニューや新設備が計画へ反映されているか
  • 実行できない確認方法が計画に残っていないか
  • 担当者の変更や営業時間の変更が反映されているか

CSV保存と保健所への提示に備える方法

食品衛生法施行規則は衛生管理の実施状況について記録・保存を求めていますが、すべての飲食店に共通する固定の保存年数は定めていません。保存期間は、取り扱う食品が使用または消費されるまでの期間を踏まえて合理的に設定するとされています。

アプリ内の記録データは2年間保存され、2年を過ぎたデータから順次削除されます。また、衛生管理計画、実施記録、毎月の振り返りはCSVで出力でき、1か月分が1ファイルとして出力されます。

アプリ内の保存期間と、自店で定める保存期間が必ず一致するとは限りません。自治体の指導、取引先との契約、社内基準などで2年を超える保存が必要な場合は、CSVを外部へ保存してください。

小規模店では、次の保存ルールが実務的です。

  1. 前月分の毎月の振り返りを完了する
  2. 計画・実施記録・振り返りをCSV出力する
  3. 「店舗名/年度/月」のフォルダへ保存する
  4. 店舗端末とは別のパソコンや管理されたクラウドストレージへ複製する
  5. 四半期ごとにファイルを開き、欠落や破損がないか確認する

ファイル名は「2026-07_店舗名_HACCP記録」のように年月と店舗名を含めると探しやすくなります。保健所の確認時に慌てないよう、アプリ画面または保存したCSVを速やかに提示できる状態にしておきましょう。

アプリをアンインストールしたり、端末上でアプリデータを削除したりすると、保存情報も削除されます。故障や紛失も想定し、アプリ内保存だけに依存しないことが重要です。

従業員の氏名や体調などを特記事項へ記録した場合は、CSVの閲覧権限を経営者、店長、食品衛生責任者など必要な担当者に限定してください。私物端末を含むチャットグループへ無制限に共有する運用は避けましょう。

導入時によくある5つの失敗

1.初期設定の例文をそのまま登録する

自店にない設備や実行できない確認方法が残ると、計画と現場が一致しません。設備一覧とメニュー表を見ながら、一項目ずつ修正してください。

2.店長の個人スマートフォンだけで管理する

店長不在時に入力できず、異動や退職時の引継ぎも難しくなります。可能であれば店舗所有端末を使い、CSV出力を含む管理責任者を複数決めましょう。

3.複数端末へ同じ店舗を登録する

クラウド同期機能がないため、端末ごとに別の記録が蓄積されます。一店舗につき記録元となる端末を原則一台に決め、二重入力を避けてください。

4.「否」を後から「良」へ書き換える

異常が発生した事実は、改善に必要な情報です。「否」を残したうえで、食材の移動や使用中止、廃棄、再加熱、清掃、機器点検、責任者への報告など、実施した対応を記録します。

5.CSVを一度も出力しない

アプリ内では2年間保存されますが、端末の故障、紛失、データ削除への備えにはなりません。毎月の振り返りとCSV出力を同じ締め作業に組み込みましょう。

飲食店のHACCP記録アプリに関するFAQ

Q.アプリを使えば紙の記録表は不要ですか?

食品衛生法施行規則は記録と保存を求めていますが、記録媒体を紙だけに限定していません。厚生労働省の公式アプリで必要な計画と記録を適切に作成・保存し、必要時に確認できる運用であれば、厚生労働省は紙との二重管理をアプリ利用の条件として示していません。

ただし、自治体から個別の指導を受けている場合や、本部・取引先の衛生基準がある場合は、そのルールも確認してください。

Q.インターネットにつながらない厨房でも使えますか?

入力情報は端末内に保存される仕様です。一方、インストール、ヘルプページの閲覧、CSVの外部共有などでは通信環境が必要になる場合があります。公式資料はすべての機能について完全なオフライン動作を保証しているわけではないため、導入前に実店舗で動作を確認してください。

Q.複数店舗の記録を一台で一元管理できますか?

公式アプリはクラウド型の多店舗管理システムではありません。各店舗で記録元となる端末を定め、CSVを本部へ集約する方法が現実的です。リアルタイム管理が必要なら、クラウド型サービスを検討しましょう。

Q.温度計やセンサーと自動連携できますか?

公式資料では、外部システムとの自動連携機能は案内されていません。庫内温度は温度計で確認し、アプリへ手入力する前提で運用計画を立ててください。

Q.記録は何年間残せばよいですか?

法令上、すべての飲食店に共通する固定年数は示されていません。取り扱う食品が使用または消費されるまでの期間を踏まえ、合理的な保存期間を設定します。自治体、取引先、社内基準が具体的な期間を定めている場合もあるため、管轄保健所へ確認し、自店の保存ルールを文書化してください。

Q.メニュー変更のたびに計画を見直す必要がありますか?

新メニューによって非加熱、加熱、冷却、保存、再加熱などの工程が変わる場合は、重要管理のポイントを見直します。季節メニューの追加、低温調理の導入、調理機器や保存方法の変更時にも、衛生管理計画との不一致がないか確認してください。

まとめ:アプリ導入より運用ルールが重要

厚生労働省のHACCP衛生管理記録アプリは、小規模飲食店が衛生管理計画、日々の記録、毎月の振り返りを一台の端末で管理するための実務的な選択肢です。特に、紙の記録表が散逸する、担当者によって書き方が異なる、月次確認ができていない店舗では、導入を検討する価値があります。

一方、クラウド同期、多店舗のリアルタイム集約、温度センサーとの自動連携はできません。また、アプリ内データは2年間で順次削除されるため、月次のCSV保存が必要です。

導入前に、食品衛生責任者と店長が手引書を確認し、次の5点を決めてください。

  • 自店用に修正した衛生管理計画
  • 記録元となる端末
  • 開店・調理・閉店時の入力担当者
  • 異常時の報告・対処・記録方法
  • 毎月の振り返りとCSV保存の担当者

まずは1週間程度テスト運用し、入力が遅れる時間帯や担当が曖昧な項目を洗い出してから本格運用へ移行しましょう。

参考資料

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