はじめに
飲食店開業は、多くの人にとって「夢の実現」であると同時に、無数のタスクをこなす複雑なプロジェクトでもあります。「何から手をつけていいかわからない」まま走り出し、準備不足でオープンが遅れたり、開業直後に資金難に陥ったりするケースは少なくありません。
成功する飲食店の多くは、開業までのプロセスを明確に「見える化」しています。その羅針盤となるのが「開業スケジュール」です。
この記事では、最も一般的とされる「6ヶ月前」から逆算したモデルスケジュールを提示し、各フェーズでクリアすべき重要タスクを徹底的に解説します。
なぜ「6ヶ月」必要なのか?
「もっと早く開業したい」と焦る方もいるかもしれません。しかし、飲食店の開業準備には、自分ではコントロールできない時間が必ず発生します。
- 物件探し:理想の物件に出会うまでの時間
- 融資審査:金融機関の審査にかかる時間(約1〜2ヶ月)
- 内装工事:設計と工事にかかる時間(約1〜2ヶ月)
これらに加え、コンセプト設計、メニュー開発、許認可手続きなどを並行して進めるため、最低でも6ヶ月の準備期間を見込むのが、失敗のリスクを減らす現実的なスケジュールです。
【6ヶ月モデル】開業までにやるべきことロードマップ
Phase 1:開業6ヶ月前「構想・計画フェーズ」
すべての土台となる最も重要な時期。ここで描く設計図が、お店の未来を決めます。
- [最重要] コンセプトの具体化
- 「誰に」「何を」「どのように」提供し、喜んでもらうのか?
- ターゲット顧客、価格帯、お店の雰囲気、提供価値を徹底的に言語化します。
- 事業計画書の作成
- コンセプトを「数字」に落とし込みます。
- 売上予測、初期投資額(内装、厨房機器、運転資金など)、資金調達計画、損益分岐点などを計算。
- これは融資を受ける際の「企画書」にもなります。
- 資金調達方法の検討
- 自己資金でどれだけ賄えるかを確認。
- 日本政策金融公庫の融資、銀行融資、補助金・助成金など、調達方法の情報を収集します。
- 開業エリアの選定
- コンセプトに合ったターゲット層が住んでいるか、働いているか。
- 競合店の調査(商圏分析)も開始します。
Phase 2:開業5〜4ヶ月前「物件・資金調達フェーズ」
計画を「現実」にするための行動を開始する時期。大きな決断が続きます。
- 物件探し(不動産会社巡り)
- 立地、広さ、家賃の条件を明確にし、複数の不動産会社にコンタクトを取ります。
- 居抜き物件にするか、スケルトン物件にするかも大きな分岐点です。
- 内装・施工業者の選定
- 物件と並行し、コンセプトを形にしてくれる業者を探し始めます。
- 複数の業者に相見積もりを取り、デザインセンスや担当者との相性を見極めます。
- 資金調達の申込み
- 事業計画書を携え、金融機関(公庫など)との面談、融資の申し込みを行います。審査には時間がかかるため、早めに動き出します。
- メニューの試作開始
- コンセプトに基づき、看板メニューの試作と原価計算を開始します。
Phase 3:開業3ヶ月前「契約・設計フェーズ」
後戻りできない大きな契約が集中する時期。慎重かつ迅速な判断が求められます。
- 物件契約の締結
- 家賃、契約期間、保証金、原状回復の条件などを細かく確認し、契約します。
- 内装・レイアウト設計の確定
- 厨房と客席の動線、必要な厨房機器のサイズなどを考慮し、内装業者と設計図をFIXさせます。
- 各種許認可の確認
- 保健所、消防署、警察署(深夜営業の場合)など、必要な許認可手続きの種類と要件を最終確認します。
Phase 4:開業2ヶ月前「工事・準備フェーズ」
いよいよお店の「形」が見え始める時期。内外の準備を同時並行で進めます。
- 内装工事 着工
- 工事が設計図通りに進んでいるか、定期的に現場に足を運びチェックします。
- 厨房機器・什器の発注
- 冷蔵庫、コンロ、食洗機などの厨房機器や、テーブル、椅子、食器類を発注します。
- 仕入れ先の選定と交渉
- 食材、飲料、おしぼりなどの仕入れ先を選定し、価格やロット、配送頻度を交渉します。
- スタッフの採用活動開始
- 求人媒体への掲載、面接を開始します。
- 求人票の工夫が応募数に直結します。
- 販促ツールの準備
- ロゴデザイン、ショップカード、メニューブック、Webサイト、SNSアカウントの準備を開始します。
Phase 5:開業1ヶ月前「許認可・トレーニングフェーズ」
工事が完了し、お店に「魂」を吹き込む時期。最も多忙な1ヶ月です。
- 内装工事 完了・引き渡し
- 設計図通りか、傷や不備がないか、細かくチェックします。
- 許認可の申請・検査
- 店舗完成後、保健所や消防署に申請し、検査を受けます。「営業許可証」がなければ営業できません。
- スタッフのオペレーション教育
- 接客マニュアルや業務マニュアルを使い、オープニングスタッフの研修を行います。
- インフラ整備
- 電話、インターネット回線の開通、POSレジの導入、キャッシュレス決済の申込みを済ませます。
- 販促・広報活動の開始
- SNSでのオープン日告知、チラシのポスティング、近隣店舗への挨拶回りなど。
Phase 6:開業1週間前〜オープン当日「最終調整フェーズ」
- 食材・備品の発注・搬入
- 営業に必要な全ての食材、飲料、消耗品を揃えます。
- プレオープン(レセプション)の実施
- 知人や関係者を招待し、実際のオペレーションをシミュレーションします。
- 料理の提供スピード、スタッフの動き、レジ操作などを総点検し、課題を洗い出します。
- 近隣への最終挨拶
- 「いよいよオープンします」という挨拶と、工事中の騒音のお詫びを兼ねて、近隣住民や企業を回ります。
- 最終シミュレーションと清掃
- 【オープン当日】
- 万全の準備と最高の笑顔で、お客様をお迎えします。
スケジュール管理で失敗しないための注意点
1. スケジュールには必ず「バッファ(予備日)」を設ける
計画通りに進むことは稀です。内装工事の遅れ、機器の納期遅れ、許認可の不備など、不測の事態は必ず起こります。各工程に1〜2週間のバッファを持たせましょう。
2. タスクを「見える化」し、毎日チェックする
頭の中だけで管理せず、カレンダーアプリやExcel、手帳などでタスクリストを作成し、完了・未完了を毎日チェックする習慣をつけましょう。
3. 開業は「ゴール」ではなく「スタート」
オープン当日はゴールではありません。本当の勝負はそこからです。開業直後にやるべき販促施策や、オペレーションの改善など、走りながら考える準備もしておきましょう。
まとめ
飲食店開業は、情熱と緻密な計画の両輪があって初めて成功します。この6ヶ月モデルスケジュールを参考に、ご自身のコンセプトに合わせてカスタマイズし、タスクを一つひとつ確実にクリアしていってください。周到な準備こそが、オープン初日のお客様の「美味しかった!」の笑顔に繋がります。


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