はじめに
「昨日の夕方のニュースで紹介されたラーメン店、今日の昼には大行列ができていた」
たった一度、数分間のテレビ放送が、無名のお店を一夜にして地域のスターへと押し上げる。テレビというメディアが持つ、この圧倒的な影響力と拡散力は、多くの飲食店経営者にとって最大の魅力であり、究極の目標の一つです。
しかし、ほとんどのオーナーは「テレビ取材は、有名店に来るもの」「運が良ければ、いつかうちにも…」と考え、その機会をただ待っているだけではないでしょうか。
それは、大きな間違いです。2025年の現在、テレビ番組の制作現場は、常に新しい「ネタ」に飢えています。彼らは、まだ世に出ていない面白いお店、画になる料理、感動的なストーリーを、日々必死に探しているのです。
この記事では、「待つ」姿勢から脱却し、自店の魅力を戦略的に「伝える」ことで、テレビ取材の確率を劇的に高めるための、具体的な広報(PR)術を、明日から実践できるステップと共に徹底的に解説していきます。これは運任せの博打ではなく、狙って仕掛けることのできる、再現性のある技術です。
STEP 1:思考転換編 ー テレビマンが喉から手が出るほど欲しい「ネタ」を理解する
まず最も重要なのは、「テレビ番組のディレクターや放送作家が、何を探しているのか?」という彼らの視点を理解することです。彼らは「美味しいお店」を探しているのではありません。「面白い“ネタ”になるお店」を探しているのです。
「美味しい」は主観的で伝えにくいですが、「面白いネタ」は客観的で、映像として視聴者に伝えやすいからです。では、「ネタ」になる要素とは何でしょうか。
- 「絵力(えぢから)」:映像としてのインパクトテレビは映像メディアです。一目見て「うわ、何これ!?」と驚くようなビジュアルは、最も強力な武器になります。
- 例:器からこぼれ落ちるほどのイクラ丼、切ると中からチーズが滝のように流れ出るハンバーグ、常識外れの高さのパフェなど。
- 「意外性・ギャップ」:ストーリーのフック視聴者の興味を惹く「なぜ?」という疑問を生む要素です。
- 例:元IT企業の社長が作る、データ分析を駆使した究極のラーメン。フレンチのシェフが、その技術をすべて注ぎ込んだ本気の「アジフライ定食」。
- 「日本初・地域初・日本一」:ニュースとしての価値新しさや権威性は、情報番組が最も好む要素です。
- 例:「日本初上陸の〇〇料理専門店」「〇〇コンテストでグランプリを受賞したカレー」「地域で初めて導入したAI調理ロボット」など。
- 「ストーリー性」:視聴者の共感お店や店主にまつわる物語は、視聴者の感情に直接訴えかけます。
- 例:祖父の代から続く秘伝のタレを守る三代目。脱サラして、夢だった自分の店を開くまでの苦労話。過疎地の村を、レストランで活性化させようと奮闘する若者。この物語性は「顧客が勝手に宣伝してくれる「ストーリーブランディング」成功事例」の核心部分です。
- 「専門性・特化」:他店との圧倒的な差別化「なんでもある」お店より、「これしかない」お店の方が、ネタとして際立ちます。
- 例:アボカド料理専門店、国産クラフトジンが100種類以上揃うバー、熟成期間の異なる様々なチーズケーキだけを出すカフェなど。
あなたのお店には、この5つのうち、どれか必ず当てはまる「ネタの原石」が眠っているはずです。まずはそれを発掘し、磨き上げることから始めましょう。
STEP 2:準備編 ー 広報のプロが使う「三種の神器」を揃える
見つけた「ネタ」を、メディア関係者に効果的に伝えるためのツールを準備します。
1. プレスリリース
「新商品や新サービスの“公式発表文書”」です。A4用紙1〜2枚程度に、伝えたい情報を簡潔にまとめます。
- タイトルが命:「【〇〇区初】10種類のスパイスを調合した『白い麻婆豆腐』、9月27日より1日20食限定で提供開始」のように、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)と、メディアが興味を持つキーワード(限定、初など)を盛り込みます。
- 構成:タイトル→リード文(結論の要約)→本文(詳細)→店主のコメント→店舗情報・連絡先、という構成が基本です。
- 写真:必ず高画質で「絵力」のある写真を数点添付します。
2. ファクトブック
「お店の公式プロフィールブック」です。プレスリリースだけでは伝えきれない、より詳細な情報をまとめた資料(PDFで5〜10ページ程度)を用意しておくと、丁寧で意欲的な印象を与え、ディレクターの理解を助けます。
- 内容:お店のコンセプト、内外観の写真、店主・シェフの経歴と顔写真、メニュー一覧(写真付き)、過去のメディア掲載実績、正確な地図など。
3. メディアリスト
プレスリリースを送るための「宛先リスト」です。
- 作り方:日頃から自店が取り上げてもらいたいテレビ番組(特に情報番組のグルメコーナーや、旅番組など)をチェックし、番組名をリストアップします。そして、各テレビ局のウェブサイトにある番組ページの「情報提供はこちら」といったフォームや連絡先を地道に収集します。
STEP 3:実践編 ー 取材を呼び込むための4ステップ戦略
準備が整ったら、いよいよ行動に移します。
- STEP 1:プレスリリースの配信作成したメディアリスト宛に、プレスリリースをメールやFAXで送付します。メールの場合、件名が非常に重要です。プレスリリースのタイトルをそのまま件名にするのが良いでしょう。配信のタイミングは、週の前半(火〜木)の午前10時〜12時が、ディレクターが企画会議に向けて情報収集している時間帯なので狙い目です。予算があれば、PR TIMESや@Pressといったプレスリリース配信代行サービスを利用すると、一度に多くのメディアに配信でき、効果的です。
- STEP 2:SNSでの積極的な発信テレビマンは、常にSNSで新しいネタを探しています。プレスリリースと連動して、自店の「絵力」のあるメニューを、動画(特にリール)で積極的に発信しましょう。「飲食店のリール動画で集客するポイントと成功事例」で解説されているような、シズル感溢れる動画は、ディレクターの目に留まる可能性を秘めています。ハッシュタグに「#テレビ取材希望」と加えるのも一つの手です。
- STEP 3:丁寧な電話フォロープレスリリースを送付した1〜2日後に、特に取り上げてもらいたい最有力候補の番組には、丁寧な電話フォローを入れます。「先日〇〇という件でプレスリリースをお送りいたしました、レストラン△△の□□と申します。お忙しいところ恐縮ですが、ご覧いただけましたでしょうか?」と、簡潔に確認します。しつこい営業は禁物ですが、この一手間が担当者の記憶に残るきっかけになります。
- STEP 4:取材決定後の万全な準備取材の連絡が来たら、ゴールは目前です。番組担当者が必要とする追加情報(より詳細なデータや写真など)は、迅速かつ丁寧に対応しましょう。取材当日は、店内を完璧に清掃し、紹介されるメニューの食材や調理工程をスムーズに見せられるよう、万全の準備で臨みます。店主やスタッフは、お店のこだわりや想いを、自分の言葉で熱意をもって語れるように心の準備をしておきましょう。
まとめ:テレビ取材は「運」ではなく「技術」で引き寄せる
飲食店にとって、テレビ取材は一夜にして状況を好転させうる、強力な起爆剤です。そしてそのチャンスは、ただ待っているだけでは決して訪れません。
自店の魅力という「原石」を、客観的な視点で見つけ出し、メディアが求める「ネタ」へと磨き上げる。そして、それをプロの道具(プレスリリース)に乗せて、正しい相手に、正しいタイミングで届ける。
この一連の戦略的広報術は、一度身につければ、あなたのお店の強力な武器となります。あなたのお店の素晴らしい物語を、テレビという翼に乗せて、まだ見ぬ多くのお客様に届けてみてはいかがでしょうか。
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