結論から言うと、飲食店の水質検査は、店舗まで水が届く仕組みによって対応が変わります。水道直結なら店舗独自の年次検査は原則不要です。一方、井戸水など食品衛生法施行規則上の「飲用に適する水」を使う場合は、1年に1回以上の水質検査と検査成績書の保存が必要です。受水槽を経由する場合は、容量と自治体の条例・指導を確認しなければなりません。
- 水道直結:店舗独自の年次検査は原則不要。異常時は使用を止めて水道事業者と保健所へ連絡する
- 簡易専用水道:水道水のみを水源とし、受水槽の有効容量が10立方メートルを超える施設。設置者に年1回以上の清掃と管理状況検査が必要
- 小規模貯水槽水道:受水槽の有効容量が10立方メートル以下。水道法による全国一律の簡易専用水道規制ではなく、自治体の条例・要綱・行政指導を確認する
- 井戸水・湧水など:原則として1年に1回以上検査し、災害などで汚染のおそれがある場合は臨時検査を行う
食品衛生法施行規則では、「飲用に適する水」を使用する場合、1年に1回以上の水質検査を行い、成績書を原則1年間保存するよう定めています。検査で条件を満たさないことが明らかになった場合は、直ちにその水の使用を中止しなければなりません(厚生労働省「食品衛生法施行規則」)。
本記事では、2026年10月12日時点の制度を基に、給水方式別の判定、検査頻度、残留塩素、記録保存、2026年4月に施行されたPFOS・PFOAの水質基準、異常時の対応を解説します。
飲食店の水質検査は給水方式で判断する
まず、道路側の水道管から店舗の蛇口までの給水経路を確認してください。水道料金を支払っていても、建物内の受水槽を経由している場合があります。賃貸店舗では、管理会社や建物所有者に給水設備図面と受水槽の有効容量を確認するのが確実です。
| 給水方式 | 判定の目安 | 飲食店が確認する内容 |
|---|---|---|
| 水道直結 | 受水槽を経由せず、水道管から店舗へ直接給水 | 店舗独自の年次水質検査は原則不要。濁り、異臭、断水などの異常時対応を決めておく |
| 専用水道 | 居住人口や一日最大給水量などが水道法の要件に該当する大規模施設 | 設置者が行う水質管理の結果を管理会社に確認する |
| 簡易専用水道 | 水道水のみを水源とし、受水槽の有効容量が10立方メートルを超える | 設置者による年1回以上の水槽清掃と管理状況検査の結果を確認する |
| 小規模貯水槽水道 | 水道水を受水し、受水槽の有効容量が10立方メートル以下 | 自治体条例・要綱、建物の清掃記録、水質検査、残留塩素測定の扱いを確認する |
| 井戸水・湧水など | 水道事業等から供給される水以外を調理や飲用などに使用 | 1年に1回以上の検査、日常点検、必要な消毒、災害後の臨時検査を行う |
簡易専用水道は「52項目の年次検査」ではない
簡易専用水道では、設置者が水槽を毎年1回以上清掃し、地方公共団体の機関または登録検査機関による管理状況検査を毎年1回以上受けます。水道事業者から水質基準に適合した水を受けることを前提とするため、通常の定期水質検査の代わりに、設備、給水栓の水の状態、残留塩素、清掃記録などを確認する制度です(環境省「水道法第34条の2の規定に基づく簡易専用水道の定期の検査」)。
飲食店がテナントである場合、清掃や検査を実施するのは建物所有者や管理会社であることが一般的です。ただし、営業者は安全な水を使用できているかを確認する必要があるため、直近の清掃報告書と管理状況検査結果の写しを受け取ってください。
小規模貯水槽は自治体によって扱いが異なる
受水槽の有効容量が10立方メートル以下の小規模貯水槽水道は、水道法上の簡易専用水道には該当しません。環境省の「飲用井戸等衛生対策要領」では、業務用の小規模貯水槽水道について毎年1回以上の定期検査を行う考え方が示されていますが、具体的な義務、検査項目、保存期間は自治体の条例や指導によって異なります。
例えば東京都では、対象となる小規模貯水槽について年1回の水質検査を指導している地域があり、飲食店の営業許可更新時に水質検査成績書を求める保健所もあります(東京都南多摩保健所「営業許可期限満了時の手続きについて」)。他地域の検査セットをそのまま注文せず、営業地を管轄する保健所へ確認してください。
井戸水などに必要な年1回以上の検査と記録
井戸水、湧水など「飲用に適する水」を使用する場合、食品衛生法施行規則上、1年に1回以上の水質検査が必要です。営業許可申請時にも、該当する水を使用する場合は水質検査結果を証する書類の写しが必要になります。
検査項目と検査頻度の詳細は、地域の水質状況を踏まえて自治体が判断・指導できるとされています(厚生労働省「食品衛生法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政省令の制定について」)。「井戸水検査セット」という名称だけで選ばず、保健所が求める項目と一致しているか確認しましょう。
法令上の最低頻度とHACCPの管理例は異なる
厚生労働省が内容を確認した小規模な一般飲食店向けHACCP手引書では、井戸水について次の管理が示されています。
- 始業前に色、臭い、濁り、味などを確認する
- 塩素による消毒と残留塩素を確認する
- 年1回以上の水質検査を行い、成績書を1年間以上保存する
- 災害などで水源が汚染されたおそれがある場合は、その都度検査する
- 殺菌装置または浄水装置の作動を定期的に確認し、記録する
同手引書の衛生管理計画例では、始業前の官能確認、週1回の残留塩素測定、半年ごとの検査機関への依頼という、法令の最低頻度より慎重な運用例も掲載されています(厚生労働省確認「小規模な一般飲食店事業者向けHACCP手引書 改訂第3版」)。半年ごとの検査がすべての飲食店に一律で義務付けられているわけではありません。水源、消毒設備、過去の検査結果、自治体の指導を踏まえて衛生管理計画に頻度を定めます。
残留塩素測定は定期水質検査の代わりにならない
井戸水や貯水槽水を塩素消毒している場合は、DPD法に対応した測定器などで給水栓の残留塩素を確認します。遊離残留塩素0.1mg/L以上は、水道法令や公的な食品衛生管理資料で用いられている代表的な判定基準です。ただし、自治体が別の測定頻度や対応手順を定めている場合は、その指導を優先してください。
残留塩素を確認できても、PFOS・PFOA、有機溶剤、硝酸態窒素などの化学物質まで否定できるわけではありません。日常の官能確認・残留塩素測定と、検査機関による定期水質検査は別の管理です。「塩素を測定しているから年次検査は不要」と判断してはいけません。
水質検査成績書と管理記録の保存期間
食品衛生法施行規則による水質検査成績書の保存期間は、原則として1年間です。ただし、取り扱う食品や添加物が使用または消費されるまでの期間が1年以上の場合は、その期間保存する必要があります。
また、小規模貯水槽に関する自治体条例などで、より長い保存期間が定められている場合があります。次の記録を給水設備ごとにまとめておくと、営業許可更新や保健所の確認に対応しやすくなります。
- 水質検査成績書
- 採水日、採水場所、検査機関名
- 色、臭い、濁り、味、異物の日常確認記録
- 残留塩素濃度の測定記録
- 殺菌装置・浄水装置の作動確認、薬剤補充、フィルター交換記録
- 受水槽・高置水槽の清掃報告書
- 簡易専用水道などの管理状況検査結果
- 異常発生時の時刻、対象給水系統、連絡先、措置、再開判断
日常記録を電子化する場合は、飲食店 HACCP記録アプリ導入ガイド|厚生労働省公式アプリの設定・運用・CSV保存も参考にしてください。
2026年のPFOS・PFOA基準化で確認すること
2026年4月1日から、PFOS・PFOAが水道水の水質基準に追加されました。基準値は両物質の合算で0.00005mg/L、つまり50ng/L以下です。これにより、水道水質基準は51項目から52項目になりました(環境省「水質基準に関する省令等の改正」)。
ただし、すべての飲食店が自費でPFOS・PFOA検査を追加する制度ではありません。給水方式ごとに対応主体が異なります。
- 水道直結:水道事業者側が水質基準の遵守と検査を行うため、店舗が通常営業のために同じ検査を重ねて行う必要は原則ない
- 専用水道:専用水道の設置者が水道法に基づく水質管理を行う
- 簡易専用水道:建物側の受水槽管理と管理状況検査を確認する
- 小規模貯水槽:自治体条例・要綱と建物管理者の検査内容を確認する
- 井戸水:2026年4月施行の改正後の「飲用井戸等衛生対策要領」では、業務用飲用井戸の定期検査項目にPFOS・PFOAが明記されているため、旧来の検査セットを使い続けず保健所と検査機関へ確認する
食品衛生法上の「飲用に適する水」の具体的な検査項目は、地域の水質状況を踏まえて自治体が判断できます。一方、環境省の改正後の飲用井戸等衛生対策要領では、PFOS・PFOAを含む定期検査の考え方が示されています(環境省「飲用井戸等衛生対策要領」)。井戸水を使用する飲食店は、「52項目をすべて注文する」「従来と同じ項目で済ませる」のどちらも自己判断せず、必要項目を事前に確定してください。
飲食店の水質検査を実施する7つの手順
- 給水方式を特定する
水道直結、専用水道、簡易専用水道、小規模貯水槽、井戸水、混合水のどれに該当するか確認します。賃貸店舗では管理会社に給水設備図面と受水槽容量を問い合わせます。 - 水の使用先を洗い出す
飲料、調理、製氷、野菜洗浄、食器・器具洗浄、手洗い、コーヒーマシン、スチームコンベクションオーブンなどへの給水を確認します。 - 保健所へ事前相談する
店舗所在地、営業内容、給水方式、受水槽容量、水源、消毒装置の有無を伝え、検査項目、提出時期、成績書の有効期間を確認します。開業手続き全体は、飲食店開業に必要な届出と書類一覧【地域別まとめ・完全版】と併せて整理してください。 - 検査機関を選ぶ
保健所が案内する機関や、水道法第20条に基づく登録水質検査機関など、提出先が認める検査機関へ依頼します。「飲食店営業の申請・衛生管理に使用する成績書」と伝えてください。 - 指定方法で採水する
採水容器、蛇口部品の取り外し、放水時間、採水場所、保存温度、持込期限は検査機関の指示に従います。自己流でペットボトルなどに採水してはいけません。 - 結果と必要項目を照合する
基準への適合だけでなく、保健所が求める検査項目、採水場所、検査日、検査機関名がそろっているか確認します。 - 次回期限と臨時検査条件を登録する
次回の依頼日を予定表へ登録します。井戸水は、地震、洪水、土砂崩れ、周辺工事、浸水など、水源が汚染されたおそれがあるときに臨時検査を行います。
水質異常時はまず使用を中止する
濁り、異臭、異味、異物、残留塩素不足、水質検査の不適合が確認された場合は、問題のある給水系統の使用を止めてください。食品衛生法施行規則が直接求めているのは、不適合となった水の使用中止です。営業全体を直ちに停止するかどうかは、安全な代替水ですべての工程を衛生的に実施できるかを確認し、保健所と相談して判断します。
- 問題のある給水系統の使用を止める
- その水を使う調理、製氷、飲料提供、食器洗浄などを中断する
- 最後に正常を確認した時刻と、異常を発見した時刻を記録する
- 異常が疑われる期間に作った料理、氷、仕込み品を区分して販売・提供を保留する
- 食品衛生責任者、保健所、管理会社、水道事業者または検査機関へ連絡する
- 受水槽、配管、消毒装置、フィルター、水源周辺を点検する
- 必要な清掃、消毒、修理、再検査を行う
- 安全確認と保健所の助言を踏まえて使用・営業を再開する
煮沸は一部の微生物対策にはなりますが、化学物質や異物をすべて除去できる方法ではありません。また、飲み水だけを市販水へ切り替えても、手洗い、器具洗浄、製氷機などに安全な水を供給できなければ通常営業は困難です。「沸かせば使える」「飲み水だけ買えば営業できる」と自己判断しないでください。
物件契約・開業前の給水設備チェックリスト
物件契約後に井戸水や小規模貯水槽の使用が判明すると、水質検査、清掃、配管修理、消毒装置の設置・更新によって開業日程が遅れることがあります。契約前に次の資料と責任分担を確認しましょう。
- 給水設備図面と給水方式
- 受水槽・高置水槽の有効容量
- 直近の水槽清掃報告書
- 簡易専用水道などの管理状況検査結果
- 小規模貯水槽または井戸水の水質検査成績書
- 消毒装置・浄水装置の型式、点検履歴、交換部品
- 断水・水質異常時の緊急連絡先
- 検査、清掃、再検査、修理費を貸主と借主のどちらが負担するか
- 不適合時に代替水を確保できるか
受水槽や井戸設備が共用部分にある場合、飲食店だけでは修理や再検査を決定できません。責任分担を口頭確認で終わらせず、賃貸借契約や管理規約へ反映してください。物件契約の確認事項は、テナント契約で失敗しない!飲食店開業時の賃貸契約チェックリストでも解説しています。
飲食店の水質検査に関するFAQ
Q. 水道直結なら水質検査成績書は不要ですか?
店舗独自の年次検査成績書は原則不要です。ただし、濁水、異臭、断水などが発生した場合の連絡手順は衛生管理計画に入れておきましょう。浄水器を使用する場合は、メーカーの指示に従って清掃・交換し、履歴を残すと管理しやすくなります。
Q. 受水槽がある場合、テナントが検査を依頼しますか?
建物所有者や管理会社が清掃・検査を手配するケースが一般的です。ただし、受水槽容量と自治体の制度によって扱いが異なります。テナント側も清掃報告書、管理状況検査結果、水質検査成績書の写しを受け取ってください。
Q. 水質検査は52項目すべて必要ですか?
一律ではありません。52項目は2026年4月1日施行の水道水質基準です。食品衛生法上の「飲用に適する水」の検査項目は、地域の水質状況などを踏まえて自治体が判断できます。保健所へ必要項目を確認してから検査機関へ依頼してください。
Q. 2026年から井戸水のPFOS・PFOA検査は必須ですか?
水道直結を含むすべての飲食店に、自費検査を一律で課す制度ではありません。ただし、2026年4月施行の改正後の飲用井戸等衛生対策要領では、業務用飲用井戸の定期検査項目にPFOS・PFOAが明記されています。井戸水を使う店舗は従来の検査項目のままにせず、管轄保健所へ確認してください。
Q. 浄水器を付ければ井戸水の検査は不要ですか?
不要にはなりません。殺菌装置や浄水装置を設置している場合も、年次水質検査を行い、装置の作動状況を定期的に確認して記録します。除去できる物質や交換周期は機器ごとに異なります。
Q. 検査で不適合が出た料理はすべて廃棄ですか?
汚染項目、異常が始まった時期、水を使用した工程、加熱の有無などによって判断が変わります。まず販売・提供を止め、対象となる料理、氷、仕込み品を区分して保留し、保健所の指示を受けてください。
まとめ
飲食店の水質検査は、「水道か井戸か」だけでなく、受水槽の有無と有効容量まで確認して判断します。水道直結は店舗独自の年次検査が原則不要ですが、井戸水などの「飲用に適する水」は1年に1回以上の検査と成績書の保存が必要です。
簡易専用水道では建物設置者による年1回以上の清掃・管理状況検査を確認し、小規模貯水槽では自治体の条例・要綱・行政指導を確認します。井戸水を使用する店舗は、2026年4月からのPFOS・PFOA基準化も踏まえ、古い検査セットを自己判断で注文せず、必要項目を管轄保健所と検査機関に確認してください。

