結論からいうと、飲食店そのもの、または飲食店などの特定用途を含む「特定用途防火対象物」は、建物全体の収容人員が30人以上になると、原則として防火管理者の選任が必要です。30人ちょうども対象で、客席数だけでは判断できません。従業者、固定席、長いす、固定されていない客席部分を、消防法令上の方法で算定します。
テナントビルでは、自店の収容人員が少なくても、建物全体が選任対象となり、管理権原が所有者とテナントに分かれていれば、テナント側にも防火管理者が必要になるのが原則です。ただし、飲食店が入っているという事実だけで、すべての複合建物に一律30人基準が適用されるとは限りません。建物全体の用途判定や、ほかの用途に従属する部分の扱いには例外があるため、所轄消防署への確認が必要です。
選任対象の場合は、資格と業務上の権限を持つ店長などを防火管理者に選任し、「防火・防災管理者選任(解任)届出書」と「消防計画作成(変更)届出書」を提出します。開業後は、特定用途防火対象物として消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上実施し、事前に消防機関へ通報します。
本記事では、2026年10月17日時点の法令・公的資料を基に、30人基準、収容人員の算定、甲種・乙種の選び方、届出、消防計画、訓練までを実務順に解説します。用途判定、条例、提出方法には地域差があるため、最終判断は店舗所在地を管轄する消防署へ確認してください。
飲食店の防火管理者対応は5段階で進める
内装工事後に防火管理者の必要性を調べると、講習や書類作成が開業に間に合わないおそれがあります。次の順序で確認しましょう。
- 建物全体の用途、階数、延べ面積、収容人員を確認する
- 所有者とテナントの管理権原が分かれているか確認する
- 防火管理者の要否と、必要資格が甲種か乙種かを消防署へ確認する
- 資格者を確保し、使用開始前に選任と消防計画の準備を終える
- 開業後の点検、教育、消防訓練を年間予定に組み込む
| 確認事項 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 選任基準 | 飲食店などの特定用途に該当する建物は、原則として建物全体の収容人員30人以上 |
| 30人の数え方 | 従業者数と、客席部分を法令の算定方法で計算した人数を合算 |
| 主な届出 | 防火・防災管理者選任(解任)届出、消防計画作成(変更)届出 |
| 開業後の訓練 | 対象となる特定用途防火対象物は、消火訓練・避難訓練をそれぞれ年2回以上実施し、事前に消防機関へ通報 |
| 地域差 | 様式、提出部数、受付方法、条例による追加義務は所轄消防署へ確認 |
防火管理者の手続きとは別に、店舗の使用開始前には自治体の火災予防条例に基づく届出が必要になることがあります。詳しくは飲食店 防火対象物使用開始届【2026年版】|提出期限・必要図面・工事届との違いを確認してください。
防火管理者が必要になる30人基準
客席が30席未満でも対象になり得る
消防法令上、飲食店、物品販売店、ホテルなどの特定用途に該当する防火対象物は、原則として建物全体の収容人員が30人以上になると防火管理者の選任対象です。大阪市消防局「防火・防災管理制度について」でも、飲食店など不特定多数の人が出入りする建物について、建物全体の収容人員30人以上という基準が案内されています。
従業者も収容人員に含まれるため、「客席が30席未満だから不要」とは判断できません。単独店舗だけでなく、複合用途の建物では各用途の収容人員を用途別の方法で計算し、建物全体で合算します。
なお、建物全体の用途分類には例外があります。事務所などに付随する従属的な飲食スペースと、独立した飲食店テナントでは扱いが異なる可能性があるため、建物用途を自己判断しないことが重要です。
飲食店の収容人員の算定方法
飲食店の収容人員は、消防法施行規則第1条の3に基づき、原則として次の人数を合算します。e-Gov法令検索「消防法施行規則」
- 従業者の数
- 固定式のいす席は、いす席に対応する人数
- 長いす式の席は、正面幅を0.5メートルで割った人数(1人未満の端数は切り捨て)
- 固定されていないいす席を置く部分や和室などは、客席部分の床面積を3平方メートルで割った人数(1人未満の端数は切り捨て)
算定式は、次のように整理できます。
収容人員=従業者数+固定式いす席数+長いすの算定人数+固定されていない客席部分の算定人数
固定席として数えた部分を、固定されていない客席部分の床面積に重ねて算入してはいけません。どこまでを客席面積に含めるか、いすが消防法令上「固定式」に該当するかは、平面図と設置状況を基に消防署へ確認してください。算定方法は東京消防庁「防火管理実践ガイド」にも掲載されています。
テナントビルは自店の人数だけで判断しない
飲食店、事務所、物販店などが入る複合用途の建物では、それぞれの用途に応じて算定した収容人員を合算し、建物全体の選任義務を判定します。
防火管理者が必要な建物で管理権原が分かれている場合は、原則として建物所有者と各テナントの管理権原ごとに防火管理者を選任します。東京消防庁のガイドでも、対象となる建物では所有者とすべてのテナントに選任が必要と案内されています。
管理権原者とは、所有、管理、占有、契約などに基づき、防火対象物について正当な管理権を持つ者です。賃貸借契約の名称だけで判断せず、次の資料をそろえて消防署へ相談しましょう。
- 建物全体の用途、階数、延べ面積
- 建物全体と各テナントの収容人員
- 賃貸借契約書や管理区分が分かる資料
- 所有者、各テナントの管理権原者と防火管理者の選任状況
- 避難経路、消防用設備、防火戸などを記載した図面
- 建物全体についての消防計画
高層建築物や、一定の階数・収容人員に該当する複合用途の建物では、各テナントの防火管理者とは別に、建物全体を調整する統括防火管理者が必要です。飲食店などの特定用途を含む建物では、地上3階以上かつ建物全体の収容人員30人以上で、管理権原が分かれている場合などが対象になります。各テナントの消防計画は、統括防火管理者が作成する「全体についての消防計画」に適合させなければなりません。
甲種と乙種の選び方
防火管理者の資格には甲種と乙種があります。飲食店など一般的な特定用途の建物では、建物全体の延べ面積が300平方メートル以上なら甲種防火対象物、300平方メートル未満なら乙種防火対象物となるのが基本です。
甲種防火対象物の建物全体を担当する防火管理者には甲種資格が必要です。一方、甲種防火対象物内の飲食店テナントでも、テナント部分の収容人員が30人未満なら、甲種または乙種の資格者を選任できるのが基本です。
| ケース | 必要資格の基本 |
|---|---|
| 飲食店などの特定用途の建物で、延べ面積300平方メートル以上 | 建物全体の防火管理者は甲種 |
| 飲食店などの特定用途の建物で、延べ面積300平方メートル未満 | 建物全体の防火管理者は甲種または乙種 |
| 甲種防火対象物内の飲食店テナントで、テナントの収容人員30人以上 | 甲種 |
| 甲種防火対象物内の飲食店テナントで、テナントの収容人員30人未満 | 甲種または乙種 |
| 乙種防火対象物内のテナント | 甲種または乙種 |
社会福祉施設を含む建物、大規模・高層建築物、地下街、工事中の建物などは別の基準が関係します。物件資料だけで資格区分を決めず、講習へ申し込む前に所轄消防署へ確認してください。
店長など管理・監督できる人を選ぶ
防火管理者は、講習修了証を持っているだけでは選任要件を満たしません。防火管理業務を適切に遂行できる「管理的または監督的な地位」にあり、従業員への指示、火気管理、訓練の実施、設備不良の改善要請などを行える人であることが必要です。オーナー、店長、店舗責任者などが候補になります。
甲種防火管理新規講習は通常2日間、乙種防火管理講習は通常1日です。日程、会場、申込方法、受講料は実施機関や地域によって異なります。開業直前では希望日程を確保できない可能性があるため、物件契約の前後から確認しましょう。関連資格の全体像は飲食店開業に必要な資格はコレ!「食品衛生責任者」から「防火管理者」まで取得の流れを完全網羅で解説しています。
外部の資格者へ名義だけ借りることはできない
外部コンサルタントなどの名義だけを借りて防火管理者にすることはできません。外部委託が認められるのは、法令で定める対象に該当し、管理・監督的な地位にある人が防火管理業務を適切に行えない事情を消防長または消防署長が認め、外部の資格者へ必要な権限を付与するなどの要件を満たす場合に限られます。
外部委託を検討するときは、契約前・選任届提出前に消防署へ相談してください。委託後も、防火管理の最終責任が管理権原者からなくなるわけではありません。
選任届と消防計画を整える手順
手順1:図面を持って消防署へ事前相談する
店舗平面図、座席配置、従業者数、店舗面積、建物全体の概要を持参し、次の点を確認します。
- 建物全体の用途分類と防火管理者の選任義務
- 収容人員の算定方法
- 甲種と乙種のどちらが必要か
- 管理権原者と届出者は誰か
- テナント用の消防計画が必要か
- 統括防火管理の対象か
- 窓口、郵送、電子申請のどれを利用できるか
総務省消防庁の調査では、2026年4月1日時点で、火災予防分野の電子申請等を導入している消防本部は全国719本部中635本部です。ただし、この集計には電子メールや自治体独自システムによる受付も含まれ、すべての地域・手続きで同じシステムを利用できるわけではありません。総務省消防庁「火災予防分野の各種手続における電子申請等の導入状況等調査の結果について」
手順2:防火管理者を正式に選任する
管理権原者が資格者を選任し、「防火・防災管理者選任(解任)届出書」を所轄消防署へ提出します。消防法は、防火管理者を選任または解任したときに、遅滞なく届け出ることを求めています。一般的には、講習修了証など資格を証明する書面の写しを添付します。
届出には全国一律の「開業何日前」という期限が定められているわけではありませんが、消防庁の消防計画作成ガイドラインでは、使用開始前に防火管理者を選任し、消防計画を作成・届け出る考え方が示されています。開業日から逆算して資格者を確保してください。
手順3:店舗の実態に合う消防計画を作る
消防計画には、店舗の位置、構造、設備、営業形態に応じて、次のような事項を盛り込みます。
- 管理権原者、防火管理者、火元責任者などの役割
- 防火管理者が不在のときの代行者
- 従業員への防火教育の時期と内容
- 厨房、客席、倉庫、バックヤードの自主点検
- ガス機器、フライヤー、炭火設備などの火気管理
- 避難口、廊下、階段、防火戸を塞がないための管理
- 119番通報、初期消火、避難誘導、救護の担当
- 少人数営業時や夜間の防火管理体制
- 消防訓練の時期、種類、実施方法
- 工事や催事を行う場合の安全対策
- 消防署、管理会社、設備業者などの緊急連絡先
自治体のひな形は、そのまま提出するのではなく、自店の席配置、営業時間、シフト人数、厨房機器、避難経路に合わせて修正します。大阪市中央消防署「消防計画のひな形ダウンロード」も、事業所の規模や実態に合わせ、実効性のあるひな形を選ぶよう案内しています。
消防用設備等の法定点検は、防火管理者による日常的な確認とは別の制度です。詳しくは飲食店 消防設備点検ガイド|6か月点検・年1回報告・自主点検の条件を確認してください。
開業後は年2回の訓練と日常点検を続ける
消火訓練と避難訓練はそれぞれ年2回以上
防火管理者の選任が必要な特定用途防火対象物では、消火訓練と避難訓練をそれぞれ年2回以上実施し、実施前に消防機関へ通報しなければなりません。通報訓練は消防計画に定めた回数で実施します。
横浜市「消防訓練を実施していますか? 訓練を事前に連絡していますか?」でも、飲食店など不特定多数の人が出入りする建物について、年2回以上の訓練と事前連絡が案内されています。
訓練では、消火器の説明だけで終わらせず、次の流れを実際の店舗配置に沿って確認します。
- 厨房や客席で出火した想定を設定する
- 火災発見者が周囲へ知らせ、責任者へ報告する
- 通報担当が店名、住所、出火場所、逃げ遅れの有無を伝える
- 初期消火担当が消火器の位置と操作方法を確認する
- 避難誘導担当が客席、トイレ、個室などを確認する
- 屋外の集合場所で人数を確認する
- 問題点、担当者、改善期限を記録する
店長が不在になる時間帯がある店舗では、通報、初期消火、避難誘導を誰が担当・兼務するかまで決めます。外国人スタッフがいる場合は、図や、やさしい日本語を使った手順書を準備すると役割を共有しやすくなります。
日常点検は営業前後の作業へ組み込む
次は法律で全国一律に定められた頻度ではなく、飲食店が消防計画へ落とし込みやすい運用例です。所轄消防署の指導と自店の消防計画に合わせて調整してください。
| 頻度例 | 確認項目 |
|---|---|
| 毎日の営業前 | 避難口・通路の障害物、消火器前の物品、誘導灯の見え方、防火戸周辺 |
| 毎日の閉店時 | ガス元栓、電熱機器、炭・灰の処理、たこ足配線、残留者の有無 |
| 週1回 | 段ボールや可燃物の滞留、厨房機器周辺の油脂、排気設備周辺、避難経路 |
| 月1回 | 緊急連絡網、担当者表、消防計画と実際の席・機器配置の差異 |
| 変更の都度 | レイアウト、厨房機器、営業時間、責任者、シフト体制の変更 |
避難に使用する扉は、店内に人がいる時間帯に避難を妨げる方法で施錠してはいけません。防犯上の施錠は、営業終了後に残留者がいないことを確認してから行います。
飲食店で多い防火管理者対応の失敗
- 客席数だけで30人未満と判断する:従業者や長いす、固定されていない客席部分も算入します。
- 飲食店が入れば必ず30人基準と思い込む:建物全体の用途分類や従属用途の判断が必要です。
- ビル側だけが対応すると思う:管理権原が分かれているテナントには、自店の選任・届出が必要になるのが原則です。
- 資格者なら役職を問わないと考える:防火管理業務を実行できる管理・監督的な地位と権限が必要です。
- ひな形を修正せず提出する:存在しない設備や退職者名が残った消防計画では、緊急時に機能しません。
- 選任届だけ提出する:消防計画作成(変更)届出も必要です。
- 訓練後に連絡すればよいと考える:対象となる特定用途防火対象物の消火・避難訓練は事前通報が必要です。
- 店長交代後も届出を更新しない:旧担当者の解任、新担当者の選任、消防計画の変更を行います。
飲食店の防火管理者に関するFAQ
Q. 収容人員が29人なら防火管理者は不要ですか?
飲食店単独の建物など、30人基準が適用される特定用途防火対象物について、法令上の収容人員が建物全体で29人であれば、一般的な選任基準には達しません。ただし、従業者や客席部分の算定漏れがないか、建物の用途判定が正しいかを消防署へ確認してください。
Q. 自店の収容人員が10人でも、テナントビルなら必要ですか?
必要になる場合があります。建物全体が防火管理者の選任対象で、管理権原が所有者と各テナントに分かれていれば、小規模テナントにも選任・届出が必要になるのが原則です。甲種防火対象物内でも、自店の収容人員が30人未満の飲食店テナントは、甲種または乙種の資格者を選任できる場合があります。
Q. 居抜き店舗なら前の店の消防計画をそのまま使えますか?
経営者、店名、営業時間、従業員、厨房機器、席配置、緊急連絡先などが変わるため、内容の確認と必要な変更を行います。自治体によっては、前任者の消防計画を変更せず引き継ぐ場合に本文の再添付を省略できる運用がありますが、選任・解任や消防計画変更の届出まで不要になるわけではありません。
Q. 防火管理者と消防設備士は同じ資格ですか?
異なります。防火管理者は、消防計画、教育、訓練、火気管理、避難施設の維持管理などを担います。消防設備士は、資格区分に応じて消防用設備等の工事や整備を行う国家資格です。防火管理者に選任されても、消防設備の資格者工事や資格者点検を行えるわけではありません。
Q. 防火管理者が退職したら、後任が決まるまで空席でもよいですか?
選任義務がある建物で、防火管理者が不在の状態を放置してはいけません。退職や異動が決まった段階で後任候補と講習日程を確保し、解任・選任の届出と消防計画の変更を進めます。急な退職の場合は、資格を持つ代替候補の有無を確認し、直ちに所轄消防署へ相談してください。
まとめ
飲食店の防火管理者で重要なのは、客席数だけではなく、建物全体の用途分類と法令上の収容人員で判断することです。飲食店などの特定用途に該当し、建物全体の収容人員が30人以上になれば、原則として防火管理者の選任対象です。
テナントビルでは、自店が小規模でも選任が必要になる場合があります。一方で、飲食店を含むすべての建物に機械的に30人基準が適用されるわけではないため、用途と管理権原の確認が欠かせません。
物件契約前または内装設計の初期段階で図面をそろえて消防署へ相談し、収容人員、甲種・乙種、管理権原、選任届、消防計画を確認しましょう。開業後は、年2回以上の消火・避難訓練を年間予定に組み込み、人事やレイアウトの変更に合わせて届出と消防計画を更新することが、実効性のある防火管理につながります。

