結論からいうと、2026年10月以降に飲食店が優先すべきインボイス対応は、レシートの作り直しではなく、消費税の計算方法と仕入先区分の確認です。
2026年10月1日から、インボイス未登録事業者からの課税仕入れに関する経過措置は、仕入税額相当額の80%控除から70%控除へ変わりました。一方、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者となった事業者向けの「2割特例」は、2026年9月30日を含む課税期間まで適用できます。2027年分・2028年分には、要件を満たす個人事業者向けの「3割特例」が設けられています。
2026年10月時点で確認する3項目
- 自店が2割特例、3割特例、簡易課税、一般課税のどれを利用できるか
- 仕入先が登録事業者、未登録事業者、少額特例対象のどれに当たるか
- 2026年10月1日以後の対象取引が会計ソフトで70%控除区分になっているか
本記事では、飲食店の仕入れ、レシート、POSレジ、会計処理に絞り、2026年10月28日時点の実務を解説します。個別の適用可否や納税額は、課税期間、過去の届出、売上規模、設備投資によって変わるため、最終判断は税理士または所轄税務署へ確認してください。
飲食店のインボイス制度は2026年10月に何が変わったのか
今回の「7割控除」は、顧客に適用する消費税率が7%になったという意味ではありません。インボイス未登録事業者から課税仕入れをしたときに、仕入税額相当額の70%を控除できる経過措置です。
| 項目 | 2026年9月まで | 2026年10月以降 | 主に影響する店舗 |
|---|---|---|---|
| 未登録事業者からの仕入れ | 仕入税額相当額の80%を控除 | 2028年9月30日まで70%を控除 | 一般課税を使う課税事業者 |
| 2割特例 | 要件を満たせば利用可能 | 2026年9月30日を含む課税期間まで | 登録を機に課税事業者となった事業者 |
| 3割特例 | なし | 2027年分・2028年分の一定の個人事業者が対象 | 要件を満たす個人店 |
| 少額特例 | 税込1万円未満の一定取引は帳簿のみで控除可能 | 2029年9月30日まで継続 | 一定規模以下の事業者 |
| 飲食店が発行するレシート | 簡易インボイスを発行可能 | 基本的な記載事項に変更なし | インボイス登録済みの飲食店 |
未登録事業者からの仕入れに対する控除割合は、2026年10月1日から2028年9月30日まで70%、2028年10月1日から2030年9月30日まで50%、2030年10月1日から2031年9月30日まで30%となり、2031年10月1日以後は原則として控除できません。経過措置を利用するには、所定の請求書等と、経過措置の対象であることが分かる帳簿の保存が必要です。詳しくは国税庁「令和8年度税制改正特集」で確認できます。
また、2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、1者の未登録事業者からの対象仕入れが年または事業年度で税込1億円を超える場合、超過部分に7割・5割・3割控除を適用できません。通常の小規模飲食店で該当する可能性は高くありませんが、大規模な仕入れやグループ調達を行う場合は確認が必要です。
2割特例は2026年分の個人事業者も利用できる可能性がある
2割特例は「2026年9月30日で一律終了」ではなく、2026年9月30日までの日を含む課税期間まで適用できます。
暦年課税の個人事業者は、2026年1月1日から12月31日までの課税期間に9月30日が含まれるため、ほかの要件を満たせば2026年分の申告でも2割特例を利用できます。3月決算法人では、2026年4月1日から2027年3月31日までの課税期間が最後の対象となり得ます。
ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、課税期間を1か月または3か月に短縮している場合、調整対象固定資産や高額特定資産の取得によって免税事業者になれない場合などは、適用できないことがあります。詳細は国税庁「2割特例の概要」を確認してください。
3割特例は2027年分・2028年分の個人事業者が対象
3割特例は、インボイス登録によって免税事業者から課税事業者となった個人事業者について、2027年分と2028年分の納付税額を売上税額の3割とできる制度です。法人は利用できません。
主な要件は、個人事業者であること、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者であることです。課税期間を短縮している場合や、固定資産の取得などによって免税事業者になれない場合には対象外となることがあります。
個人店として続けるか法人化するかを検討する場合は、消費税だけで決めず、所得税・法人税、社会保険、資金調達、取引上の信用も含めて比較してください。事業形態の違いは、飲食店開業「法人化 vs 個人事業主」徹底比較ガイド|税金・信用・費用の違いで解説しています。
2027年4月の飲食料品税率引下げ法案は審議中
政府は2026年10月9日、現在の軽減税率対象となる飲食料品の消費税率を、2027年4月1日から2年間、1%とする法案を国会へ提出しました。ただし、2026年10月28日時点では衆議院で審議中で、公布年月日と法律番号はまだ記載されていません。
法案どおり成立した場合、酒類を除くテイクアウトや単なる宅配など、現在8%の対象となる飲食料品の譲渡が1%となる一方、外食に当たる店内飲食は標準税率10%のままとされる予定です。これはインボイスの「7割控除」とは別の制度です。
成立・公布前にPOSレジの本番税率を変更してはいけません。現時点では店内飲食10%、酒類を除くテイクアウト等8%で運用し、法案成立後に国税庁とPOS事業者の正式案内を確認してください。価格表示の基本は、飲食店のメニュー価格表示ルール|税込・テイクアウト・サービス料の実務チェックも参照してください。
2割特例・3割特例・簡易課税・一般課税の選び方
インボイス未登録の仕入先を調べる前に、まず自店が利用できる消費税の計算方法を確定させます。70%控除の影響を直接受けるのは、原則として一般課税を使う店舗です。
| 計算方法 | 対象の目安 | 仕入インボイスが納付税額へ与える影響 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 2割特例 | 登録を機に課税事業者となった一定の事業者 | 原則として影響しない | 2026年9月30日を含む課税期間まで |
| 3割特例 | 要件を満たす2027年分・2028年分の個人事業者 | 原則として影響しない | 法人は対象外 |
| 簡易課税 | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、必要な届出をした事業者 | 原則として影響しない | 選択後は原則2年間継続 |
| 一般課税 | 特例や簡易課税を利用しない、または利用できない事業者 | 直接影響する | 仕入先区分と証憑管理が重要 |
飲食店業は、簡易課税では原則として第4種事業に当たり、みなし仕入率は60%です。現行制度で通常の飲食店部分だけを単純比較すると、簡易課税の納付割合は売上税額の40%、3割特例は30%となるため、3割特例の方が小さくなります。
ただし、仕入商品をそのまま販売する物販、製造した食品の販売、飲食サービスが混在する店舗では、取引ごとに事業区分が異なる可能性があります。開業時の内装工事や厨房機器などで多額の消費税を支払う場合は、一般課税の方が有利になることもあります。少なくとも次の方法を試算してください。
- 2割特例または3割特例
- 簡易課税
- 一般課税で実際の仕入税額を控除する方法
2割特例、3割特例、簡易課税を利用する課税期間では、消費税の納付額を計算するために仕入インボイスを保存する必要はありません。ただし、所得税・法人税の必要経費や取引内容を証明するための領収書、請求書、電子取引データまで捨ててよいわけではありません。
7割控除による仕入コストへの影響を計算する
一般課税を使う飲食店がインボイス未登録事業者から仕入れる場合、少額特例などの例外を除き、仕入税額相当額のうち30%を控除できません。影響額は仕入代金全体の30%ではなく、仕入代金に含まれる消費税相当額の30%です。
計算例1:未登録の生産者から税込10万8,000円の食材を仕入れた場合
- 税率8%の消費税相当額:8,000円
- 7割控除できる額:8,000円×70%=5,600円
- 全額控除との差額:2,400円
計算例2:未登録事業者へ税込11万円の修理代を支払った場合
- 税率10%の消費税相当額:1万円
- 7割控除できる額:1万円×70%=7,000円
- 全額控除との差額:3,000円
この差額だけで仕入先を変更するのは適切とは限りません。食材の品質、仕入価格、配送頻度、最低発注量、欠品率、地域性などを含む総コストで判断します。
インボイス未登録を理由に、十分な協議をせず著しく低い価格を設定したり、登録しない場合の値下げや取引停止を一方的に通告したりすると、取引上の地位や契約内容によっては独占禁止法や取適法上の問題となるおそれがあります。価格を見直す場合は、実際に控除できない金額を示し、仕入先の原価や経費も踏まえて協議してください。詳細は公正取引委員会などのインボイス制度対応Q&Aで確認できます。
税込1万円未満なら少額特例を確認する
基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、2029年9月30日までに行う税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスを保存せず、一定事項を記載した帳簿のみで仕入税額控除を受けられる場合があります。
1万円未満かどうかは、商品1点ごとではなく1回の取引単位で判定します。例えば、同じ会計で6,000円の商品と5,000円の商品を購入し、合計が1万1,000円になれば対象外です。市場、直売所、ホームセンターなどで少額購入が多い店舗は、70%控除区分を入力する前に少額特例の対象か確認してください。
飲食店が行うべきインボイス対応の実務手順
手順1:消費税の計算方法を確定する
税理士または経理担当者へ、次の資料を渡して試算します。
- 過去2~3期の課税売上高
- インボイス登録日
- 課税事業者選択届出書や簡易課税制度選択届出書の控え
- 今後2年間の売上予測
- 内装、厨房機器、車両などの設備投資予定
- インボイス未登録仕入先への年間支払見込額
2割特例・3割特例の適用後に簡易課税へ移行する場合には、届出期限を緩和する措置があります。通常の提出期限だけで判断せず、国税庁の最新案内を確認してください。
手順2:仕入先台帳へ登録状況を追加する
食材卸、農家、漁業者、清掃業者、修理業者、デザイナーなど、継続的に支払う相手を一覧化し、次の項目を管理します。
- 仕入先名
- 登録番号
- 登録の有効確認日
- 適用税率
- 登録事業者・未登録事業者の区分
- 少額特例の対象可否
- 請求書の受領方法と保存場所
登録番号は請求書に記載されているだけで判断せず、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認します。新規取引時に加え、登録取消しや失効を把握できる定期確認のルールも決めてください。
手順3:会計ソフトの税区分を分ける
一般課税を使う店舗では、少なくとも次の区分を設定します。名称は会計ソフトによって異なります。
- 登録事業者からの課税仕入れ・8%
- 登録事業者からの課税仕入れ・10%
- 未登録事業者からの80%控除対象・8%/10%
- 未登録事業者からの70%控除対象・8%/10%
- 少額特例の対象取引
- 非課税、不課税、対象外取引
2026年9月30日以前の80%控除取引を、まとめて70%へ変更してはいけません。課税仕入れを行った日を基準に区分し、月をまたぐ請求書は明細日や仕入計上日を確認します。帳簿には「70%控除対象」など、経過措置の対象であることが分かる記載が必要です。
手順4:自店のレシートを点検する
飲食店は、不特定多数の顧客へ販売する事業として、宛名などを省略した適格簡易請求書を交付できます。レシートでは次の項目を確認します。
- 店舗名または事業者名と登録番号
- 取引年月日
- 飲食代、商品名などの取引内容
- 軽減税率対象品目である旨
- 税率ごとに区分した税込額または税抜額の合計
- 適用税率または税率ごとの消費税額等
適格簡易請求書では顧客名を省略できます。また、適用税率と税率ごとの消費税額等は、いずれか一方の記載で足ります。店内飲食とテイクアウトが混在する会計、酒類を含む会計、値引きを行う会計でテストし、税率別集計を確認してください。
手順5:消費税の納税資金を別管理する
2割特例から3割特例へ移る個人事業者は、同じ売上税額でも納付割合が上がります。法人は3割特例を利用できないため、簡易課税または一般課税へ移行したときに負担が大きく変わる可能性があります。
売上入金をすべて運転資金に使わず、月次で見積もった納税額を納税用口座へ移しましょう。資金繰りの基本は、飲食店のキャッシュフロー管理基本|黒字倒産を防ぐ資金繰り完全ガイドも参考になります。
2026年10月対応チェックリスト
| 確認項目 | 担当 | 完了の基準 |
|---|---|---|
| 2割特例を最後に使える課税期間を確認した | 経営者・税理士 | 開始日と終了日を文書で残した |
| 3割特例の対象可否を確認した | 経営者・税理士 | 個人・法人、売上要件、除外要件を確認した |
| 簡易課税と一般課税を試算した | 経理・税理士 | 設備投資を含む比較表がある |
| 主要仕入先の登録番号を確認した | 店長・経理 | 仕入先台帳へ確認日を記録した |
| 80%控除と70%控除を取引日で分けた | 経理 | 2026年10月の仕訳で確認した |
| 少額特例の入力ルールを決めた | 経理 | 1取引単位の判定方法を共有した |
| レシートの登録番号と税率表示を確認した | 店長・POS担当 | 8%・10%の商品でテスト会計した |
| 納税資金の積立額を更新した | 経営者 | 月次資金繰り表へ反映した |
よくある質問
Q. 7割控除になったら仕入代金を30%下げてもよいですか?
いいえ。控除できなくなるのは仕入代金全体の30%ではなく、消費税相当額の一部です。実際の影響額を計算し、仕入先の原価や経費を踏まえて協議してください。
Q. 2割特例から3割特例へ自動的に移行しますか?
すべての事業者が移行できるわけではありません。3割特例は2027年分・2028年分の一定の個人事業者が対象で、法人は対象外です。基準期間の課税売上高や除外要件も確認が必要です。
Q. 簡易課税なら仕入先の登録番号を確認しなくてもよいですか?
簡易課税の納付額計算では実際の仕入税額を使わないため、登録の有無は原則として納付額に影響しません。ただし、将来一般課税へ戻る場合や、取引・証憑管理に備え、主要仕入先の登録状況を管理しておくと安全です。
Q. 飲食店のレシートには顧客名が必要ですか?
飲食店が交付できる適格簡易請求書では、交付先の氏名・名称を省略できます。ただし、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの金額などの必要事項は表示しなければなりません。
Q. 2027年4月の税率変更を今すぐPOSへ登録すべきですか?
2026年10月28日時点では政府法案が衆議院で審議中です。成立・公布前に本番環境の税率を変更せず、POS事業者へ改修予定とテスト方法を確認する段階にとどめてください。
まとめ
2026年10月のインボイス制度対応では、未登録事業者からの仕入れに対する控除割合が80%から70%へ変わりました。ただし、この変更が納付税額へ直接影響するのは、原則として一般課税を使う店舗です。
まず自店が2割特例、3割特例、簡易課税、一般課税のどれを利用できるか確認し、その後に仕入先台帳と会計ソフトを整備してください。設備投資、テイクアウト売上、未登録仕入先への年間支払額を含めた試算が必要です。
特に、2割特例の適用が終わる店舗では納税額が増える可能性があります。申告時期まで待たず、月次で税区分と納税資金の積立額を見直しましょう。

