はじめに|黒字でも倒産する?飲食店の「資金繰り崩壊」の現実
「売上はあるのに、気づいたら口座残高がゼロに近い」──そんな経験、ありませんか?
飲食店の経営は、黒字だからといって安全とは限りません。利益が出ていても、タイミングよくお金が入ってこなければ、黒字倒産してしまう現実があります。
とくに個人経営の飲食店は、現金商売であっても支払いサイトがズレたり、固定費が先に出ていく構造のため、資金繰りが命綱。売上が伸びている最中に倒れる、という矛盾すら現実に起こっています。
本記事では、飲食店の資金繰り管理に成功した実例をベースに、月次のキャッシュフロー管理術を体系的にご紹介します。ツールやAIの活用方法も交え、「続けられるお店」になるための資金管理の要点をまとめました。
資金繰りの基本構造を理解する
飲食店の「黒字倒産」が起こる3つの要因
黒字倒産の典型的な要因は以下の3つです。
- 支払いのタイミングが売上より先に来る
- 家賃や人件費は毎月固定で発生し、売上は日々の積み上げ。
- クレジット決済の入金が翌月末、などのズレも。
- 売上の増加に伴う運転資金の不足
- 来客数増加→仕入れ増加→現金支出増加。
- 伸びている店舗こそ資金ショートしやすい。
- PL上の利益と現金のズレを把握していない
- 会計上は黒字でも、現金が減っていく実感がない。
- 実態を掴めないまま、気づいたときには資金ショート。
たとえば、以下の記事でも「利益率が高くても固定費が回収できない構造」が指摘されています:
→ 飲食店の利益率を上げるために見直すべき固定費ベスト5
PLと資金繰り表の違いを押さえる
PL(損益計算書)=儲けの構造を知るもの
資金繰り表=お金が実際に動くタイミングを追うもの
多くの飲食店経営者がPLだけを見て安心し、資金繰り表を作らないため、見えない穴が生まれます。
PLでは「売上が今月100万円」でも、現金の入金が来月だったら、資金繰りはマイナスになります。
飲食店ならではの資金繰りの特徴
- 現金商売でも「タイムラグ」がある
- 人件費や家賃など「動かせない支出」が多い
- クレジット決済や出前サービスの入金サイトが長い
これらを踏まえた「見える化」が重要です。
月次管理の基本ステップと実行例
STEP1:支出予定を月初に一覧化する
最初にやるべきは、支出の全リスト化です。
- 家賃・水道光熱費
- 仕入れ(食品・酒類)
- 人件費
- 借入返済
- 税金・保険料
- サブスク費用(POSレジ、予約管理システムなど)
→ GoogleスプレッドシートやNotionで管理する経営者も増えています。
STEP2:売上と回収時期のズレを可視化
現金商売でも「すぐに入らない売上」があることに注意。
- Uber Eatsや出前館:入金が2週間~1ヶ月後
- クレカ決済:月末締め翌月末払い
- 法人宴会:請求書後払いの場合あり
このズレを無視して「売上=入金」と認識すると、資金ショートのリスクが高まります。
STEP3:資金ショートを防ぐためのリスクシナリオ設計
次に、「月末の残高がいくらあればセーフか」の逆算です。
- 仕入れが増えた場合
- 雨の日が続いて売上減少した場合
- スタッフの急な欠勤で人件費が上がった場合
など、リスクを織り込んだシナリオを考えておくと、冷静な判断ができます。
資金繰りに成功した飲食店の実例
事例①:利益率は低くてもキャッシュ管理で潰れなかった焼鳥店
- 都内の焼鳥屋。月商約130万円。利益率は10%前後。
- 毎週月曜日に1週間分のキャッシュフロー表を更新。
- 月末残高を**「家賃+仕入れ+人件費3週間分」以上にキープ**。
- 売上が下がってもキャッシュ余力があり、コロナ禍でも継続営業。
→ 資金繰りに余裕があることで、急な集客施策にも即対応。
事例②:仕入れ・人件費を週単位で管理したラーメン店の回復劇
- 開業1年目で赤字。月末に資金ショートしがち。
- 原因は「人件費の使いすぎ」と「仕入れ過多」。
- 週ごとに「仕入れ上限額」と「人件費上限」を設定。
- 結果、キャッシュ残高が安定し、月商180万円まで回復。
→ 数値を「月単位」ではなく「週単位」で見るだけで劇的に改善。
事例③:月次CF表をAIで自動化し、1年でキャッシュ3倍にした居酒屋
- 複数店舗展開中の居酒屋。スタッフにExcelの使い方の教育が困難。
- 月末に自動でLINEに「資金繰り表スクリーンショット」を配信。
- 「AIで売上予測」→「翌月の必要仕入れ・人件費」を自動計算。
- 約1年で、キャッシュ残高が300万円 → 950万円に増加。
→ 導入したAIツールの解説は以下にも記載:
売上予測AIの活用で仕込み量を最適化する
実際に使える資金繰り管理ツール5選
1. freee会計(資金繰り表機能あり)
- クラウド会計の定番。自動でCF表作成。
- 銀行連携、POS連携で自動仕訳可能。
- 小規模飲食店に人気。
2. マネーフォワードクラウド会計
- キャッシュフローレポートが視覚的にわかりやすい。
- タグ管理で仕入れや人件費をグループ化可能。
- スマホアプリ連携も高評価。
3. Notion + テンプレート管理
- オリジナルテンプレートを使いこなせる経営者向き。
- 毎月の固定費・変動費・売上・キャッシュ残高を一元管理。
- AIウィジェットでレポートを自動作成する機能も。
4. Googleスプレッドシート(無料)
- 最も柔軟にカスタマイズできる。
- LINE通知やGAS連携で「毎週末に残高チェック」も可能。
- スプレッドシートのテンプレートは後述で配布予定。
5. ChatGPT+Zapierによるレポート自動化
- 月末に「支出一覧を入力」するとAIが資金繰りコメントを生成。
- LINE、Slack、メールへの自動配信も可能。
→ AIと連携した活用法はこちらでも解説:
飲食店でも使えるChatGPTの業務事例10選【テンプレ付き】
飲食店の資金繰りを強化する仕組みづくり
仕入れタイミングと支払いサイトの見直し
- 現金仕入れ→末締め翌月払いの掛けに変更するだけで大幅改善。
- 業者との交渉で、支払いサイトの延長が可能な場合も多い。
リース・分割払い・ファクタリングの活用法
- 厨房機器やPOSレジはリースで導入し、初期支出を分散。
- **ファクタリング(売掛金の前倒し回収)**は短期の資金ショート対策に有効。
→ 中古機器の導入・リースのコツはこちら:
開業費用を抑える厨房機器の中古活用術|リース・買取どちらがお得?
売上が安定する仕組み(会員制・サブスクなど)の導入事例
- 月額会費で「安定収益」を確保したカフェの事例あり。
- VIP会員制度で、会員数×月額3,000円 → 毎月固定で60万円のベース収入に。
→ 導入方法や注意点は下記に詳述:
飲食店の会員制度設計ガイド|LTVを最大化する仕組み作り
まとめ|資金繰りの視点を経営の中心に据える
飲食店経営で最も重要なのは、「利益よりもキャッシュ」です。
- 売上が増えても資金繰りが崩れれば倒産します。
- 月末の資金残高を常に意識すること。
- AIやツールを使って自動化・可視化を進めること。
「美味しい料理×資金管理」が揃ったとき、はじめて「続く飲食店」になれます。
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