結論からいうと、飲食店の割増賃金は「残業時間×時給×1.25」だけでは正しく計算できません。最初に店舗が週40時間制か週44時間特例の対象かを確認し、実労働時間を「法定時間外」「法定休日」「深夜」「月60時間超」に分けます。そのうえで、基本給だけでなく算入対象となる手当を含めた1時間当たりの賃金を掛けて計算します。
特に注意したいのは、午後10時以降が常に1.5倍になるわけではないこと、週休2日の休日がすべて1.35倍になるわけではないこと、常時使用する労働者が10人未満の飲食店には週44時間特例が適用される場合があることです。以下では、2026年10月23日時点の法令・公的資料に基づき、給与計算の手順を整理します。法的根拠は労働基準法第32条、第35条、第37条、第40条などです。出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
飲食店の割増賃金は4つの軸で判定する
勤怠を締めるときは、次の4項目を別々に集計します。深夜労働は時間外労働や休日労働と重なるため、1種類の「残業時間」だけで管理すると計算漏れが起きます。
- 法定時間外労働:原則として1日8時間または週40時間を超えた時間。週44時間特例の対象事業場では週44時間超
- 月60時間を超えた法定時間外労働:月60時間を超えた部分だけ割増率が50%以上になる
- 法定休日労働:週1日または4週間を通じて4日の法定休日に働いた時間
- 深夜労働:午後10時から翌午前5時までに働いた時間
法定時間外労働や法定休日労働をさせるには、割増賃金の支払いとは別に、原則として36協定の締結・届出が必要です。手続きは飲食店 36協定ガイド【2026年版】|必要なケース・上限時間・特別条項・届出手順で確認してください。
法定の最低割増率一覧
| 労働の区分 | 加算する割増率 | 通常賃金を含む支払倍率 |
|---|---|---|
| 月60時間以下の法定時間外労働 | 25%以上 | 1.25倍以上 |
| 月60時間を超えた部分の法定時間外労働 | 50%以上 | 1.50倍以上 |
| 法定時間外ではない深夜労働 | 25%以上 | 1.25倍以上 |
| 月60時間以下の法定時間外労働+深夜労働 | 50%以上 | 1.50倍以上 |
| 月60時間超の法定時間外労働+深夜労働 | 75%以上 | 1.75倍以上 |
| 法定休日労働 | 35%以上 | 1.35倍以上 |
| 法定休日労働+深夜労働 | 60%以上 | 1.60倍以上 |
上表は法定の最低基準です。就業規則、労働契約、労働協約などでこれを上回る割増率を定めている場合は、その定めに従います。出典:大阪労働局「割増賃金」
中小企業でも、2023年4月1日以降は月60時間を超えた法定時間外労働に50%以上の割増率が適用されています。月60時間の集計には法定休日労働を含めません。一方、法定外休日に働いた時間のうち、法定時間外労働に当たる時間は含めます。出典:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
手順1:週40時間か週44時間かを店舗ごとに確認する
「シフトを超えた時間」と「法定時間外」は違う
雇用契約上の勤務時間を超えたからといって、必ず25%の割増が必要になるわけではありません。例えば、所定労働時間が1日6時間のアルバイトが7時間働いても、1日8時間・週40時間などの法定枠を超えていなければ、その1時間は「所定時間外」ではあるものの、法定時間外割増の対象ではありません。ただし、働いた1時間分の通常賃金は必要です。契約や就業規則で所定時間外の加算を定めている場合は、その定めも適用します。
反対に、各日の勤務が8時間以内でも、週の合計が40時間を超えれば、超えた部分は法定時間外労働になります。日単位ですでに法定時間外として集計した時間は、週単位で二重計上しません。
常時10人未満の飲食店は週44時間特例の対象になり得る
飲食店などの接客娯楽業で、事業場に常時使用する労働者が10人未満、つまり1~9人の場合、法定労働時間を1日8時間・週44時間とする特例があります。会社全体の人数ではなく、原則として店舗などの事業場単位で判定します。1日8時間の上限は変わりません。出典:大阪労働局「よくあるご質問(労働時間・休日)」
人数には、正社員だけでなく、常態として使用するパート・アルバイトも含めて判断します。「同時に出勤している人数」ではなく、その店舗で常態として使用している労働者数を確認してください。
週44時間特例の対象店舗でも、雇用契約や就業規則で週40時間を所定労働時間としている場合、40時間を超えて働いた時間を無給にはできません。40時間から44時間までの部分には少なくとも通常賃金を支払い、契約上の加算がある場合はそれも支払います。
変形労働時間制を導入している店舗は別判定になる
1か月単位などの変形労働時間制を適法に導入している場合、事前に特定した日や週では8時間・40時間を超えても、直ちに法定時間外労働にならないことがあります。週44時間特例の対象事業場は、1か月単位の変形労働時間制でも一定期間を平均して週44時間以内とすることができます。
一方、1年単位の変形労働時間制では、週44時間特例の対象事業場も平均週40時間以内にする必要があります。繁忙になった後で都合よくシフトを書き換えられる制度ではなく、労使協定や就業規則、対象期間、労働日、各日の労働時間などを法定の方法で定めなければなりません。出典:茨城労働局「労働基準法のあらまし(変形労働時間制)」
手順2:割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金を計算する
時給制は時給額、月給制は月平均所定労働時間で割る
時給制の従業員は、原則として契約上の時給が計算基礎です。月給制の場合は、次の式で1時間当たりの賃金を求めます。
1時間当たりの賃金=割増賃金の基礎に入る月給額÷1年間における1か月平均所定労働時間
月によって所定労働時間が異なる場合は、年間の所定労働時間を12で割って1か月平均所定労働時間を求めます。明確に区分された固定残業代など、すでに時間外・休日・深夜労働の対価として支払う部分は、通常の労働時間に対する月給額には含めません。出典:大阪労働局「割増賃金」
基本給だけで計算しない
割増賃金の基礎から除外できる賃金は、次の7種類に限定されています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
職務手当、役職手当、精皆勤手当などは上記に含まれないため、原則として算定基礎に入れます。出典:厚生労働省「割増賃金を計算する際の基礎となる賃金は何か」
また、「住宅手当」「通勤手当」という名称だけで除外できるわけではありません。例えば、通勤距離や実費に関係なく全員へ一律に支給する通勤手当や、住宅費用に連動せず一律に支給する住宅手当は、算定基礎から除外できない場合があります。名称ではなく支給条件と実質で判断してください。出典:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金」
月給制の計算例
以下は計算方法を示すための仮定であり、実在店舗の事例ではありません。
- 基本給:24万円
- 職務手当:2万円
- 実費に応じた通勤手当:1万円
- 年間休日:120日
- 1日の所定労働時間:8時間
- 固定残業代:なし
1年間を365日とすると、年間所定労働日数は245日、年間所定労働時間は1,960時間です。1か月平均所定労働時間は「1,960時間÷12=約163.33時間」となります。
実費に応じた通勤手当を除いた26万円を約163.33時間で割ると、1時間当たりの賃金は約1,591.84円です。以下では説明を分かりやすくするため、労働者に不利にならないよう1,592円に切り上げて計算します。
月60時間以下の法定時間外労働を10時間行い、そのうち4時間が深夜だった場合の追加支給額は次のとおりです。
- 法定時間外労働分:1,592円×1.25×10時間=19,900円
- 深夜加算分:1,592円×0.25×4時間=1,592円
- 合計:21,492円
実際の給与計算では、就業規則や賃金規程に定めた適法な端数処理を一貫して適用し、切り捨てによる未払いが生じないようにしてください。
手順3:飲食店のシフトを時間帯ごとに分解する
計算例1:時給1,200円で14時から24時まで勤務
18時から19時まで1時間休憩を取り、実労働が9時間だったとします。週の法定労働時間はまだ超えておらず、通常の労働時間制を採用している前提です。
- 実労働9時間の通常賃金:1,200円×9時間=10,800円
- 1日8時間を超えた23時から24時の時間外加算:1,200円×0.25×1時間=300円
- 22時から24時の深夜加算:1,200円×0.25×2時間=600円
- 支給額合計:11,700円
22時から23時までは深夜労働ですが、1日8時間以内なので合計1.25倍です。23時から24時までは法定時間外労働と深夜労働が重なるため、合計1.5倍になります。
実労働時間が8時間を超える場合は、原則として少なくとも1時間の休憩が必要です。詳しくは飲食店 休憩時間ルール【2026年版】|6時間・8時間の基準と手待時間・交替休憩をご覧ください。
計算例2:法定休日の18時から24時まで勤務
時給1,200円で6時間勤務した場合、18時から22時までは1.35倍、22時から24時までは法定休日労働と深夜労働が重なるため1.60倍です。
- 18時から22時:1,200円×1.35×4時間=6,480円
- 22時から24時:1,200円×1.60×2時間=3,840円
- 支給額合計:10,320円
法定休日労働中は、8時間を超えても休日35%に時間外25%を加える扱いにはなりません。深夜に及んだ部分だけ、休日35%に深夜25%を加えます。
計算例3:1日8時間を週6日勤務
実労働が週48時間で、各日8時間以内だった場合、通常の週40時間制では8時間が法定時間外労働です。一方、週44時間特例の対象事業場では4時間が法定時間外労働になります。
ただし、週44時間特例の対象でも所定労働時間を週40時間と定めている場合、40時間から44時間までの4時間にも通常賃金の支払いが必要です。就業規則や労働契約で所定時間外の加算を定めていれば、その加算も必要です。
法定休日・法定外休日・振替休日・代休の違い
35%以上の休日割増が必要なのは、原則として法定休日に働かせた場合です。週休2日のもう1日や、店舗が独自に定めた休業日は、法定外休日であることがあります。法定外休日に働いた時間は、それだけで自動的に1.35倍になるわけではなく、週40時間または44時間を超えた部分が時間外割増の対象になります。
振替休日は、あらかじめ休日と労働日を入れ替える制度です。就業規則上の根拠を整え、事前に振替日を特定するなどの要件を満たせば、元の休日に働いても休日労働にはなりません。ただし、週をまたいで振り替えた結果、週の法定労働時間を超えれば、時間外割増が必要になることがあります。
代休は、休日労働をさせた後で別の労働日を休みにするものです。事後に代休を与えても、すでに行われた法定休日労働は消えないため、休日割増を支払う必要があります。出典:厚生労働省「振替休日と代休の違いは何か」
飲食店で起こりやすい7つの計算ミス
1.午後10時以降をすべて1.5倍にする
午後10時以降でも、法定時間外労働でなければ深夜割増だけなので合計1.25倍です。法定時間外労働と深夜労働が重なった部分が1.5倍、月60時間超の法定時間外労働と深夜労働が重なる部分が1.75倍です。
2.土日や店休日の出勤をすべて1.35倍にする
35%以上の割増が必要なのは法定休日です。給与計算を安定させるには、就業規則や勤務カレンダーで法定休日を明確にしておきましょう。
3.法定休日労働を月60時間の集計に含める
月60時間超の判定に法定休日労働は含めません。ただし、法定外休日に行った労働のうち法定時間外に当たる時間は含めます。
4.毎日の勤務時間を15分・30分単位で切り捨てる
実労働時間は日ごとに正確に把握するのが原則です。毎日12分、18分などを一律に切り捨て、その分の賃金を支払わない運用は認められません。
事務簡便のため、1か月における時間外・休日・深夜労働の各合計に1時間未満の端数が出た場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる処理は認められています。ただし、日ごとの切り捨てとは異なります。出典:大阪労働局「よくあるご質問(時間外労働・休日労働・深夜労働)」
5.開店準備や閉店作業を打刻時間から外す
店長などの指示による開店準備、清掃、レジ締め、朝礼、後片付け、指定制服への着替えなどは、使用者の指揮命令下で行われる場合、労働時間に該当します。単に早く店舗へ到着した時間がすべて労働時間になるわけではありませんが、明示または黙示の指示で作業している時間を除外してはいけません。出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
6.店長には残業代が不要だと判断する
「店長」「料理長」「マネージャー」という役職名だけで、労働基準法上の管理監督者になるわけではありません。職務内容と責任・権限、勤務時間に関する裁量、賃金などの待遇を実態に即して判断します。また、管理監督者に該当する場合でも深夜割増は必要です。出典:厚生労働省「管理監督者の範囲の適正化に関するQ&A」
7.固定残業代を払えば追加計算は不要と考える
固定残業代を導入する場合は、通常賃金部分と固定残業代部分を判別できるようにし、固定残業代の金額や算定の基礎となる時間数などを明確にします。実際の労働時間から計算した法定の割増賃金が固定額を上回った月は、差額を追加で支払わなければなりません。
固定残業代を支給しても、勤怠管理や36協定は不要になりません。固定残業代が時間外分だけを対象とするのか、休日・深夜分も含むのかについても明確に区分する必要があります。出典:厚生労働省「固定残業代を支払うこととすれば、別途に残業代を支払わなくてよいでしょうか?」
給与計算を間違えない月次運用フロー
- 店舗ごとの労働時間制度を確認する
通常の週40時間制、週44時間特例、変形労働時間制の適用状況と要件を確認します。 - 法定休日を勤務カレンダーに明示する
法定外休日、振替休日、代休と区別します。 - 従業員ごとの計算単価を登録する
基本給だけでなく、職務手当や役職手当など算入対象の手当を確認します。 - 実際の始業・終業・休憩を記録する
開店準備、閉店作業、清掃、手待時間などを含め、シフト予定ではなく実績を使います。 - 日・週・月の順に集計する
日8時間超、週40時間または44時間超、月60時間超を確認し、重複計上を避けます。 - 法定休日と深夜時間を重ねて確認する
時間外+深夜、休日+深夜を別項目で集計します。 - 給与明細と賃金台帳を照合する
時間外、休日、深夜の時間数と手当額を区分して記録します。
勤怠集計表には、少なくとも「実始業」「実終業」「休憩」「実労働」「日時間外」「週時間外」「法定休日」「深夜」「月60時間超」「計算単価」の欄を設けると確認しやすくなります。賃金台帳などの整備は飲食店 法定三帳簿【2026年版】|労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の作り方と保存期間も参照してください。
飲食店の割増賃金に関するFAQ
Q.シフト終了後に30分働いたら必ず1.25倍ですか?
A.必ずではありません。所定労働時間を超えていても、1日8時間・週40時間または44時間の法定枠内なら、原則として通常賃金です。ただし、午後10時以降なら深夜割増が加わり、契約上の所定時間外手当があればその支払いも必要です。
Q.午後10時から30分だけ働いた場合も深夜割増は必要ですか?
A.必要です。深夜割増は午後10時から翌午前5時までの実労働時間に発生し、短時間勤務のアルバイトにも適用されます。
Q.高校生が午後10時を過ぎた場合、割増賃金を払えば働かせられますか?
A.割増賃金を払えばよいという問題ではありません。18歳未満の年少者は、原則として午後10時から翌午前5時まで働かせることができず、時間外労働や休日労働にも制限があります。詳しくは飲食店 高校生アルバイト 雇用ルール【2026年版】|18歳未満の深夜勤務・年齢証明・シフト管理を確認してください。
Q.前日に2時間残業した従業員を、翌日に2時間早く帰せば相殺できますか?
A.通常の労働時間制では相殺できません。前日に発生した1日8時間超の時間外労働は、翌日の短時間勤務では消えないため、前日分の割増賃金を支払う必要があります。
Q.法定休日に10時間働いたら、8時間を超えた2時間は1.60倍ですか?
A.深夜でなければ原則1.35倍です。法定休日労働と時間外労働の割増は重複しません。午後10時から翌午前5時までの部分は、休日35%と深夜25%を合わせて1.60倍になります。
Q.法定休日に出勤した後で代休を与えれば、休日割増は不要ですか?
A.不要にはなりません。事後に代休を与えても法定休日労働の事実は消えず、35%以上の休日割増が必要です。事前に休日と労働日を適法に入れ替える振替休日とは扱いが異なります。
まとめ:割増率を掛ける前に労働時間を分類する
飲食店の割増賃金を正しく計算するには、最初から金額を計算するのではなく、先に実労働時間を分類することが重要です。
- 週40時間制か週44時間特例かを事業場単位で確認する
- 変形労働時間制は導入要件と事前に特定したシフトを確認する
- 所定時間外と法定時間外を分ける
- 法定休日、法定外休日、振替休日、代休を区別する
- 午後10時から翌午前5時までの時間を別集計する
- 月60時間を超えた法定時間外労働は50%以上に切り替える
- 月給制は算入対象手当を含めて時間単価を計算する
- 開店準備、閉店作業、清掃なども実態に応じて記録する
- 固定残業代が法定額に不足した月は差額を追加支給する
変形労働時間制、複数店舗をまたぐ勤務、副業・兼業、管理監督者性、複数の賃金形態が混在するケースでは計算が複雑になります。判断が難しい場合は、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士に確認してください。

