結論からいうと、飲食店が正社員、パート、アルバイトなどの労働者を雇い入れたときは、雇用形態を問わず、担当業務に必要な安全衛生教育を遅滞なく実施しなければなりません。法令上は「遅滞なく」とされていますが、事故防止のため、包丁、スライサー、フライヤー、熱湯、業務用洗剤などを扱わせる前に、該当する教育を済ませることが基本です。
「経験者だから説明しない」「動画を見せるだけで終える」「作業させた後で注意事項を伝える」という運用は避け、自店の設備、動線、作業手順、禁止事項、緊急時対応を具体的に教え、本人が安全に実行できるか確認してください。
| 確認事項 | 結論 |
|---|---|
| 対象者 | 正社員、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態を問わず対象 |
| 実施時期 | 雇入れ時と作業内容の変更時に遅滞なく実施。実務上は対象作業を始める前 |
| 教育内容 | 労働安全衛生規則第35条の8項目のうち、担当業務に必要な事項 |
| 最低時間 | 通常の雇入れ時教育には一律の法定最低時間なし |
| 賃金 | 教育時間は労働時間。法定時間外に行えば割増賃金が必要 |
| 記録保存 | 通常の雇入れ時教育には一律の法定保存期間なし。ただし記録作成・保存が望ましい |
2024年4月1日からは、従来一部の業種で認められていた、機械・原材料の危険性、安全装置・保護具、作業手順、作業開始時点検に関する教育の省略規定が廃止されました。飲食店でも、業種だけを理由にこれら4項目を省略することはできません。ただし、8項目すべてを同じ時間ずつ説明する必要があるわけではなく、従業員が担当する業務に必要な事項を選び、具体的に教育します。厚生労働省「雇入れ時教育の省略規定の廃止」
飲食店の雇入れ時安全衛生教育は誰に、いつ必要か
正社員だけでなくパート・アルバイトも対象
労働安全衛生法第59条は、事業者が労働者を雇い入れたときと、労働者の作業内容を変更したときに、安全または衛生のための教育を行うよう定めています。厚生労働省も、業種、職種、雇用形態にかかわらず教育が必要と案内しています。
そのため、学生アルバイト、短時間パート、外国人スタッフ、期間限定スタッフも、店舗が直接雇用する労働者であれば対象です。厚生労働省「労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など」
| ケース | 必要な対応 |
|---|---|
| 新規採用したアルバイト | 担当業務に必要な教育を遅滞なく行い、危険を伴う作業は教育後に開始する |
| ホールから厨房へ配置転換 | 刃物、熱源、厨房機器、洗剤など、追加される業務の教育を行う |
| 新しいスライサーや食洗機を導入 | 設備や作業方法が大幅に変わる場合は、変更内容に応じた教育を行う |
| 他店での勤務経験がある人 | 知識・技能を確認したうえで、自店固有の設備、動線、避難経路、緊急時対応を教える |
| 派遣スタッフ | 雇入れ時教育は原則として派遣元が実施する。派遣先の店舗が作業内容を変更した場合は、店舗側にも作業内容変更時教育の義務が生じる |
| 業務委託先・納品業者 | 雇用関係に基づく雇入れ時教育とは分けて判断する。ただし、立入禁止区域や避難経路など、店舗内で守る安全ルールは共有する |
派遣労働者については、派遣元と派遣先が業務内容、使用設備、教育の実施状況を連絡調整する必要があります。厚生労働省「派遣労働者の安全衛生対策について」
「遅滞なく」が法令上の期限。実作業前の教育が基本
労働安全衛生規則第35条は、労働者を雇い入れたとき、または作業内容を変更したときに、必要な教育を「遅滞なく」行うよう定めています。作業内容の変更には、異なる作業への転換のほか、作業設備や作業方法などの大幅な変更が含まれます。軽微な変更まで一律に再教育が必要という意味ではありません。
営業初日から包丁、フライヤー、スライサー、食洗機用洗剤などを扱わせる場合は、その作業を始める前に、該当する危険性、作業手順、点検、保護具、緊急時対応を教えてください。労働安全衛生規則第35条、労働安全衛生法および同法施行令の施行について
接客用語、制服、勤怠打刻などを含む初日の受け入れ全体は、バイトの初出勤マニュアルに入れるべきこと|飲食店新人教育の完全ガイドと組み合わせて整備すると、説明漏れを防ぎやすくなります。
教育時間は労働時間として賃金を支払う
通常の雇入れ時安全衛生教育には、一律の法定最低時間はありません。一方、安全衛生教育は事業者の責任で行うものであり、所定労働時間内の実施が原則です。教育に要する時間は労働時間に当たり、法定時間外に実施した場合は、割増賃金の支払いが必要です。
無給のオリエンテーションにしたり、賃金を支払わず自宅で動画を視聴させたりする運用はできません。厚生労働省「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」
なお、労働条件の明示は安全衛生教育とは別の手続きです。採用時の書類については、飲食店 労働条件通知書 2026年10月改正|パート・アルバイト雇用の対応チェックリストも確認してください。
法令上の8項目を飲食店の作業に落とし込む
労働安全衛生規則第35条が定める教育内容は、次の8項目です。条文を読み上げるだけではなく、「自店では何が危険か」「どの手順なら安全か」「異常時に何をするか」を具体的に教えます。
| 法令上の項目 | 飲食店で教える内容の例 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 1. 機械・原材料等の危険性、有害性、取扱方法 | 包丁、スライサー、ミキサー、フライヤー、ガス機器、熱湯、重量物、洗剤・漂白剤の危険 | 本人に危険箇所を指差してもらう |
| 2. 安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能と取扱方法 | 機械の安全カバー、非常停止、耐熱手袋、切創防止手袋、滑りにくい履物、保護眼鏡 | 装着方法や停止操作を実演してもらう |
| 3. 作業手順 | 包丁の受け渡し、油交換、食洗機清掃、閉店清掃、ごみ出し、納品物の運搬 | 手順を説明し、実際に再現してもらう |
| 4. 作業開始時の点検 | 床の水・油、刃やカバー、ガス臭、電源コード、換気、通路、機器の異音 | 開店前点検を指導者と一緒に行う |
| 5. 疾病の原因と予防 | 厨房の暑熱、腰痛、洗剤による皮膚障害、長時間の立ち作業、換気不足 | 体調不良時の報告先を答えてもらう |
| 6. 整理・整頓・清潔の保持 | 刃物の定位置、通路への段ボール放置禁止、水や油の即時処理、コード類の整理 | 開店・閉店チェック表で確認する |
| 7. 事故時等の応急措置と退避 | 機械の停止、119番通報、責任者への連絡、避難経路、切創・やけど発生時の初動 | ケース問題や避難経路の指差しで確認する |
| 8. その他必要な安全・衛生事項 | 配達時の交通安全、酔客対応、一人で行わせない作業、災害時の集合場所 | 職種別チェックリストで確認する |
東京労働局の2026年4月改定資料によると、東京都内の飲食店で2019年から2024年に発生した休業4日以上の労働災害は、事故の型別では転倒26%、切れ・こすれ20%、高温・低温の物との接触16%でした。全国一律の割合ではありませんが、新人教育で転倒、切創、やけどを優先する根拠の一つになります。
初出勤日に行う安全衛生教育の手順
手順1:担当業務ごとに危険源を洗い出す
厨房、ホール、洗い場、倉庫、清掃、配達など、担当業務ごとに危険源を整理します。法律の8項目を上から読み上げるだけでなく、新人スタッフが実際に歩く順路に沿って確認すると、説明漏れを防ぎやすくなります。
- 厨房:包丁、スライサー、ミキサー、フライヤー、オーブン、ガス、熱湯
- 洗い場:割れた食器、食洗機、洗剤、床の水濡れ、重量のある食器かご
- ホール:段差、階段、配膳中の衝突、熱い料理、椅子や荷物による通路障害
- 倉庫:高所の荷物、脚立、酒樽や米袋の運搬、狭い通路
- 清掃:洗剤の希釈、換気、保護具、機械停止後の清掃
- 配達:自転車・バイクの点検、悪天候、運転中のスマートフォン操作禁止
手順2:座学、現場確認、実技を分ける
教育時間に一律の法定基準はありません。次の時間配分は小規模店向けのモデルであり、法律上の指定時間ではありません。担当業務、設備数、本人の習熟度に応じて増減してください。
| 目安 | 実施内容 |
|---|---|
| 10分 | 教育の目的、事故発生時の連絡先、119番通報、避難経路 |
| 20分 | 店舗内を歩き、段差、熱源、刃物、消火器、救急箱、非常口を確認 |
| 25分 | 担当設備の安全な操作、禁止行為、使用前点検を指導者が実演 |
| 20分 | 本人による操作練習を行い、指導者が横で確認 |
| 10分 | ケース問題、口頭質問、実演による理解度確認 |
| 5分 | 未習得項目、単独作業の可否、再教育日、指導者名を記録 |
動画やeラーニングも利用できますが、教育内容が労働安全衛生規則第35条の範囲を満たし、本人が受講したことを確認でき、質問を受け付けて回答できる体制が必要です。機器操作などの実技教育は、講師と同じ場所で対面により実施します。厚生労働省「eラーニング等による安全衛生教育の実施について」
手順3:「説明した」ではなく「できる」を確認する
チェック欄は「説明済み」だけで終わらせず、次の3段階に分けると実務で使いやすくなります。
- 説明済み:危険性、禁止事項、安全な手順を説明した
- 実演済み:指導者が安全な操作を見せた
- 単独作業可:本人が正しい手順で再現できた
単独作業可になるまでは、スライサーの分解清掃、フライヤーの油交換、重量物の高所保管などを一人で任せないようにします。教育不足を本人の注意力だけで補おうとせず、危険作業そのものを制限してください。
飲食店で優先して教えたい6つの事故防止ポイント
1. 包丁・スライサー・割れた食器
- 包丁は作業台やシンクに放置せず、決めた場所に収納する
- 包丁は手渡しせず、安定した場所に置いて受け渡す
- スライサーやミキサーは、電源を停止してから清掃する
- 割れた食器はごみ袋へ直接入れず、店舗で定めた容器と分別手順を使う
- 刃に詰まった食材を手で押し込まず、専用の押し具を使う
2. フライヤー・鍋・熱湯
- 高温の油や熱湯を通路や床に置かない
- 油交換の温度、容器、運搬経路、担当人数を事前に決める
- 熱い料理を運ぶときの声かけを統一する
- やけど発生時の作業停止、応急措置、責任者への連絡、受診判断の流れを決める
3. 転倒
- 水、油、食材をこぼしたら、原則としてすぐに処理する
- すぐ処理できない場合は、周囲へ声をかけ、立入制限や注意表示を行う
- 階段では荷物で足元や視界を塞がない
- 店舗で滑りにくい履物の基準を決める
- 通路、非常口、消火器の前に段ボールや酒ケースを置かない
4. 洗剤・漂白剤
業務用洗剤の中には、SDSの交付やリスクアセスメントの対象となる化学物質を含む製品があります。リスクアセスメント対象物を基準以上含む製品を取り扱う場合は、業種や事業場規模にかかわらず対応が必要です。対象物以外でも、危険有害性がある化学品はリスクアセスメントの努力義務の対象となります。
商品名や「市販品」という理由だけで判断せず、製品ラベルと、メーカーや仕入先から提供されたSDSを確認してください。希釈方法、適切な保護具、換気、混合禁止、小分け容器の表示、目や皮膚に付着した場合の対応を教育します。厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A」、厚生労働省「食料品製造業・飲食店での洗浄作業 化学物質管理マニュアル」
5. 暑熱・腰痛・体調不良
厨房では熱源、蒸気、換気状態によって暑熱負担が高くなる場合があります。水分補給場所、休憩の申し出、体調不良の報告先、重量物を持つときの姿勢、二人作業に切り替える基準を初日に伝えてください。
暑熱環境の測定や緊急時対応については、飲食店 熱中症対策マニュアル|2026年ガイドライン対応のWBGT測定・厨房改善・緊急手順で詳しく解説しています。
6. 外国人スタッフへの伝え方
外国人スタッフには、本人が教育内容を確実に理解できる方法で伝えることが重要です。短い日本語、写真、実演、危険箇所の色分け、本人が理解できる言語の資料を組み合わせます。
「分かりましたか」と聞くだけではなく、本人に危険箇所を指差してもらう、手順を説明してもらう、実際に操作してもらう方法で確認してください。厚生労働省は、多言語の安全衛生教材やイラストによる注意表示を公開しています。厚生労働省「外国人労働者の安全衛生管理」
教育記録に残す項目と実務用の様式
通常の雇入れ時・作業内容変更時教育については、特別教育のような一律の記録保存義務や保存期間は法令に明記されていません。ただし、労働局は、教育履歴として実施日時や概要を記録し、一定期間保存することが望ましいと案内しています。
事故発生時の確認や、次のシフト責任者への引き継ぎに使えるよう、紙またはデータで次の項目を記録してください。古川労働基準監督署「新規採用者に対する雇入れ時教育」
| 記録欄 | 記載内容 |
|---|---|
| 受講者 | 氏名、所属、担当職種、雇入れ日 |
| 実施情報 | 実施日時、実施場所、教育時間 |
| 教育担当者 | 氏名、役職 |
| 教育内容 | 法令上の8項目に対応した具体的内容 |
| 使用資料 | 手順書名、動画名、機器取扱説明書、SDS |
| 実技確認 | 包丁、厨房機器、清掃、保護具などの確認結果 |
| 理解度 | 口頭質問、テスト、指差し確認、実演の結果 |
| 未習得事項 | 単独作業を認めない項目、再教育の予定日 |
| 確認 | 受講者と教育担当者の署名または電子承認 |
署名を集めること自体を目的にせず、「どの機器を教えたか」「本人が実演できたか」「まだ一人で任せてはいけない作業は何か」が分かる状態にします。保存期間は社内の文書管理ルールで定め、在職中や事故・ヒヤリハット発生時に教育履歴を確認できるようにしてください。
機器の入れ替え、メニュー変更、厨房レイアウト変更、事故やヒヤリ・ハットの発生後には、手順書と教育内容も見直します。
なお、安全衛生教育と雇入時健康診断は別の義務です。対象者や実施時期は、飲食店の健康診断義務【2026年版】|アルバイト・深夜勤務・費用・2027年改正で確認できます。
飲食店の雇入れ時安全衛生教育でよくある質問
Q. 経験者なら教育を省略できますか?
労働安全衛生規則第35条第2項により、十分な知識と技能を有すると認められる事項は省略できます。ただし、本人の自己申告だけで8項目を一括して省略するのは避けてください。
他店と自店では、機器、床、避難経路、洗剤、油交換方法などが異なります。知識と実技を確認し、省略した項目と判断理由を記録するのが安全です。
Q. 動画を見せれば教育は完了しますか?
座学部分には利用できますが、視聴だけでは店舗固有の危険や機器操作を確認できません。動画の後に、現場巡回、機器の停止操作、保護具の装着、口頭質問、実技確認を行ってください。
Q. 教育時間は何分必要ですか?
通常の雇入れ時教育に一律の法定最低時間はありません。包丁を使わないホール担当者と、複数の食品加工機械を使う厨房担当者では、必要な内容と時間が異なります。時間数を先に固定するのではなく、必要な項目を本人が安全に実行できるところまで行います。
Q. 記録は3年間保存すればよいですか?
「3年間保存」は、労働安全衛生規則第38条が定める特別教育の記録と混同されやすい点です。通常の雇入れ時・作業内容変更時教育には、同じ保存期間の明文規定はありません。社内ルールで保存期間を定め、必要なときに教育履歴を確認できる状態を維持してください。労働安全衛生規則第35条・第38条
Q. 雇入れ時教育と特別教育は同じですか?
別の制度です。雇入れ時教育は、新たに雇い入れた労働者へ担当業務に必要な安全衛生事項を教えるものです。特別教育は、労働安全衛生規則第36条で定められた危険・有害業務へ従事させる場合に、定められた内容と時間で行います。特別教育が必要な業務を担当させる場合、雇入れ時教育だけで代替することはできません。
Q. 実施しなかった場合に罰則はありますか?
労働安全衛生法第59条第1項・第2項への違反は、同法第120条により、50万円以下の罰金の対象となり得ます。罰則への対応だけでなく、従業員の負傷、休業、人員不足、営業への影響を防ぐための基本業務として実施してください。労働安全衛生法第59条・第120条
まとめ:初日に「危険を知る・実演する・記録する」まで行う
飲食店の雇入れ時安全衛生教育は、マニュアルを渡して署名をもらうだけでは不十分です。担当業務の危険を洗い出し、法令上の8項目と結び付け、店舗内を歩きながら説明し、本人の実演まで確認してください。
- アルバイトを含む労働者へ、雇入れ時に遅滞なく実施する
- 危険を伴う作業は、該当する教育を行ってから任せる
- 2024年4月以降は、飲食店でも業種だけを理由に1~4の項目を省略しない
- 教育時間は労働時間として賃金を支払う
- 転倒、切創、やけど、洗剤、暑熱、腰痛、緊急時対応を優先する
- 動画だけで終わらせず、現場確認と実技確認を行う
- 未習得の作業は一人で任せず、再教育日を決める
- 実施内容、理解度、実技結果、単独作業の可否を記録する
まずは厨房、ホール、洗い場の3区分で危険を洗い出し、初出勤用のチェックシートを1枚作るところから始めましょう。

