結論からいうと、通常勤務日に飲食店が現物で提供するまかないを所得税上の給与として課税しないためには、原則として「従業員が食事価額の半分以上を負担する」「店側の負担額が1人あたり月7,500円以下」の両方を満たす必要があります。
2026年4月1日以後に支給する食事から、店側負担額の非課税限度額は月3,500円から月7,500円へ引き上げられました。また、一定の深夜勤務者へ現物の夜食に代えて支給する金銭の上限も、勤務1回につき300円から650円へ引き上げられています。7,500円と650円の限度額は、消費税・地方消費税を除いた金額で判定します。国税庁「No.2594 食事を支給したとき」
ただし、所得税の非課税要件を満たしても、健康保険・厚生年金では現物給与として報酬へ算入する場合があります。また、まかない代を給与から天引きするには、労働基準法第24条に基づく書面の賃金控除協定が必要です。所得税、社会保険、給与天引きは、それぞれ別の基準で確認してください。
飲食店が最初に確認する4項目
- まかないの「食事価額」を販売価格ではなく、税務上の方法で計算しているか
- 従業員から実際に徴収する金額が、食事価額の50%以上か
- 食事価額と本人負担額の差額が、1人あたり月7,500円以下か
- 給与天引きの賃金控除協定と、社会保険の現物給与判定を別々に確認したか
飲食店のまかない代に適用される2026年の給与課税ルール
通常勤務日のまかないは2要件を両方満たす
役員や従業員へ通常勤務日に提供する食事は、次の2要件を両方満たせば、原則として給与として課税されません。
| 要件 | 判定内容 |
|---|---|
| 本人負担 | 食事価額の50%以上を実際に徴収する |
| 店側負担 | 食事価額から本人負担額を引いた金額が、1人あたり月7,500円以下 |
どちらか一方でも満たさなければ、食事価額と本人負担額の差額が給与として課税されます。月7,500円以内であっても、無料で提供すれば本人負担の要件を満たさないため、原則として店側負担額の全額が課税対象です。7,500円を超えた場合も、超過額だけではなく、食事価額と本人負担額の差額全体が課税対象となります。国税庁「給与等とされる経済的利益の評価」
月7,500円は店舗全体の上限ではなく、まかないの提供を受ける役員・従業員1人ごとに判定します。正社員、パート、アルバイトといった雇用区分だけで一律に判断せず、各人の利用回数と負担額を月単位で集計してください。
7,500円基準は税抜きで判定する
店側負担が月7,500円以下かどうかは、消費税・地方消費税を除いた金額で判定します。税抜きにした店側負担額の合計に10円未満の端数が生じた場合は、その端数を切り捨てます。
一方、要件を満たさず給与課税することになった場合は、税抜き後の金額ではなく、食事価額から本人負担額を差し引いた実際の経済的利益が課税対象です。軽減税率と標準税率が混在する場合は、税率ごとに税抜額を計算する必要があります。国税庁「食事を支給したときの非課税限度額の判定」
2026年4月1日に3,500円から7,500円へ改正
食事の現物支給に関する所得税の非課税限度額は、2026年4月1日以後に支給する食事から月7,500円へ引き上げられました。同時に、一定の深夜勤務者へ現物の夜食を提供できない場合に支給する金銭の上限も、勤務1回につき650円へ変更されています。国税庁「令和8年度 源泉所得税の改正のあらまし」
古い就業規則、給与ソフト、賃金控除協定、税理士へ渡す集計表に「3,500円」「300円」が残っている店舗は、2026年4月1日以後の支給分について設定を見直しましょう。
まかないの食事価額はメニュー価格ではなく直接費で計算する
飲食店が自店で調理したまかないの食事価額は、客へ販売するメニュー価格ではありません。国税庁は、使用者が調理して支給する食事について、材料費や調味料など、食事を作るために直接かかった費用の合計額で評価するとしています。
| 提供方法 | 所得税上の食事価額 | 実務上残す資料 |
|---|---|---|
| 店内で調理 | 食材、調味料などの直接費 | 標準レシピ、仕入単価表、使用量表 |
| 弁当などを購入 | 業者へ支払う購入金額 | 請求書、領収書、注文履歴 |
| 社員食堂等の運営を外部委託 | 原則は契約・請求内容により判定。施設の無償使用や材料提供等の条件を満たし、費用内訳が適正かつ明確なら直接費で評価できる場合がある | 委託契約書、請求書、材料費等の内訳 |
現場で毎食の原価を測るのが難しい場合は、「まかないAは1食420円」「まかないBは1食510円」のように標準レシピから基準額を作り、仕入価格の変動に合わせて更新する方法があります。これは法令上定められた唯一の管理方法ではありませんが、食事価額の根拠を説明しやすくする実務案です。
少なくとも、主要食材の値上げ、レシピ変更、提供量の変更があったときは再計算してください。原価率から販売価格を逆算しただけの金額や、根拠のない一律額を食事価額とする運用は避けましょう。
所得税の計算例
以下は、消費税等を除いた金額で単純化した例です。まかないの直接費が1食500円、月18食を提供する場合、月の食事価額は9,000円です。
- 本人負担:250円×18食=4,500円
- 店側負担:9,000円-4,500円=4,500円
- 本人負担は食事価額の50%
- 店側負担も月7,500円以下
この場合は2要件を満たすため、所得税上は給与として課税しない扱いが可能です。
一方、本人負担を1食200円にすると月3,600円となり、食事価額の半分に届きません。店側負担が5,400円で月7,500円以下であっても、本人負担要件を満たさないため、5,400円が給与課税の対象となります。
給与からまかない代を天引きするには賃金控除協定が必要
まかない代を毎月の給与から差し引く場合、所得税や社会保険料のような法定控除とは異なり、事業場の過半数労働組合、または労働者の過半数代表者との書面による賃金控除協定が必要です。食事代を控除するケースについても、労働局が協定の必要性を明示しています。大阪労働局「よくあるご質問(賃金・退職金・賞与関係)」
賃金控除協定には全国共通の法定様式はありませんが、少なくとも次の内容が分かるように作成します。
- 控除項目が「従業員食事代」であること
- 対象となる従業員の範囲
- 1食あたりの金額または計算方法
- 利用回数を確定する締日
- 控除する給与の支払日
- 欠勤、休職、退職月、誤集計時の精算方法
更新漏れを防ぐために、有効期間や見直し時期を定めることも考えられます。賃金控除協定は原則として労働基準監督署への届出が不要ですが、店舗で書面を保管し、従業員が確認できるよう周知してください。奈良労働局「労使協定の締結と届出」
協定があっても、食べていない従業員から無条件に徴収してよいという意味ではありません。利用申込み、日々の喫食記録、欠勤月や退職月の精算方法を定め、給与明細には「食事代」など内容が分かる名称で表示しましょう。
賃金台帳には、賃金の一部を控除した場合の金額を記載する必要があります。給与記録の整備については、飲食店 法定三帳簿【2026年版】|労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の作り方と保存期間も確認してください。
所得税で非課税でも社会保険では現物給与になる場合がある
健康保険・厚生年金の被保険者へ労働の対償として継続的に食事を提供する場合は、所得税とは別に、都道府県別の現物給与価額を用いて報酬額を判定します。
本人から告示額の3分の2以上を食事代として徴収していれば、社会保険上は現物による食事の供与がないものとして扱われます。本人負担が告示額の3分の2未満の場合は、告示額から本人負担額を差し引いた金額を現物給与として報酬へ算入します。厚生労働省「厚生労働大臣が定める現物給与の価額の取扱いについて」
| 比較項目 | 所得税 | 健康保険・厚生年金 |
|---|---|---|
| 食事の評価額 | 店内調理は材料費等の直接費 | 勤務地の都道府県別告示額 |
| 本人負担の基準 | 食事価額の50%以上 | 告示額の3分の2以上 |
| 店側負担の上限 | 月7,500円以下 | 7,500円基準は使用しない |
健康保険組合では、規約によって別の定めを設けている場合があります。協会けんぽ以外へ加入している店舗は、加入先の健康保険組合にも確認してください。
所得税は非課税でも社会保険では報酬算入となる例
東京都の事業所で、昼食だけを月20日提供するものとします。2026年4月以後の東京都における「昼食のみ」の現物給与価額は1日300円なので、社会保険上の月額は6,000円です。厚生労働省「現物給与の価額改定について(令和8年度)」
一方、自店で作る昼食の直接費が1食200円、本人負担が1食100円だったと仮定します。
- 所得税:食事価額4,000円に対して本人が2,000円を負担。半額以上で、店側負担2,000円も月7,500円以下なので非課税要件を満たす
- 社会保険:告示額6,000円の3分の2は4,000円。本人負担2,000円は基準未満なので、6,000円-2,000円=4,000円を現物給与として報酬へ算入する
所得税だけを見てまかない代を設定すると、社会保険の報酬算入を漏らす可能性があります。社会保険へ加入するスタッフがいる店舗は、勤務地の最新告示額を確認し、資格取得、算定基礎届、月額変更届などへどう反映するかを給与担当者や社会保険労務士に確認してください。
残業食・深夜勤務の夜食代は通常のまかないと分ける
| 支給方法 | 所得税上の基本的な扱い |
|---|---|
| 通常勤務日のまかない | 本人50%以上負担、店側負担月7,500円以下の両方が必要 |
| 残業または宿日直を行う人へ提供する食事 | 現物で提供する食事は、無料でも給与課税しなくてよい |
| 一定の深夜勤務者へ現物の夜食に代えて支給する金銭 | 要件を満たし、勤務1回につき650円以下なら非課税 |
| 一般的な食事手当・昼食代を現金支給 | 原則として全額が給与課税 |
650円の特例は、労働協約や就業規則等で定めた正規の勤務時間の一部または全部が午後10時から翌日午前5時までに及ぶ深夜勤務者について、調理施設がないなどの理由で夜食の現物支給が著しく困難なため、通常の給与に加算して勤務1回ごとの定額で支給する場合が対象です。国税庁「深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭に対する所得税の取扱いについて」
単に「遅番だから」「福利厚生として昼食代を渡したい」という理由では利用できません。また、税抜きの支給額が650円を超えた場合は、超過分だけでなく支給額全体が給与課税の対象となります。
従業員が飲食店へ代金を払い、後から店がその一部を現金で精算する方式も、原則として食事の現物支給ではなく金銭支給です。月7,500円以内、かつ50%補助であっても、通常は全額が給与課税となります。国税庁「使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合」
まかない制度を整備する7つの手順
- 提供対象を決める:勤務時間、雇用区分、通常勤務、残業、宿日直、深夜勤務を区分する。
- 食事価額を計算する:標準レシピと仕入単価から、材料・調味料等の直接費を算出する。
- 本人負担額を設定する:所得税の50%基準、店側負担月7,500円基準、社会保険の3分の2基準を別々に試算する。
- 利用ルールを作る:申込方法、喫食記録、欠勤時、廃棄時、退職月の精算方法を定める。
- 賃金控除協定を締結する:過半数代表者を適正に選出し、控除項目と計算方法を書面化する。
- 給与設定を行う:課税対象額や現物給与がある場合に、源泉徴収、報酬月額、賃金台帳へ反映できるよう設定する。
- 毎月照合する:喫食記録、本人負担、店側負担、給与控除額を従業員別に照合する。
記録表には「日付、従業員名、朝食・昼食・夕食の区分、食数、1食の価額、本人負担額、店側負担額、通常食・残業食・深夜食の区分」を入れておくと、所得税と社会保険を確認しやすくなります。
衛生管理と休憩時間も切り分ける
まかないも食中毒やアレルギー事故の管理対象です。客用料理と同様に、加熱、冷却、保管、提供時間を店舗の衛生管理計画に組み込みましょう。詳しくは、飲食店 HACCP 衛生管理計画の作り方【2026年版】|3分類・記録・保存期間と、飲食店 食物アレルギー対応マニュアル【2026年版】|29品目・表示・接客・緊急時を参照してください。
また、まかないを食べている時間が自動的に休憩になるわけではありません。電話・来客対応、仕込みの監視などを指示され、労働者が自由に利用できない時間は労働時間と判断される可能性があります。休憩の考え方は、飲食店 休憩時間ルール【2026年版】|6時間・8時間の基準と手待時間・交替休憩で確認できます。
よくある質問
Q. 余った食材で作るまかないは0円で計算できますか?
単に「余りそうだった」「客へ販売できなかった」という理由だけで食事価額を0円にはできません。自店で調理する食事は、材料費や調味料などの直接費で評価します。廃棄予定品、無償取得品、棚卸処理との関係で判断が難しい場合は、取得記録や廃棄基準を示して税理士へ確認してください。
Q. 月7,500円まで現金の食事手当を非課税で渡せますか?
原則としてできません。月7,500円基準は、要件を満たす食事の現物支給に関する基準です。一般的な食事手当を現金で支給する場合は、原則として全額が給与課税となります。一定の深夜勤務者に対する勤務1回650円以下の夜食代などは例外です。
Q. 従業員全員から同じ月額を天引きしてもよいですか?
利用回数が異なるのに一律徴収すると、未利用者とのトラブルや税務上の集計誤差が生じます。定額制を採用する場合も、対象者の申込み、利用条件、欠勤・休職時の扱い、退職月の精算方法を明確にし、賃金控除協定や就業規則等へ計算方法を反映してください。
Q. 法人の役員にも7,500円基準を使えますか?
はい。国税庁の食事支給ルールは、役員と使用人の双方を対象にしています。ただし、ここで説明したのは所得税上の食事支給の判定です。要件を満たさず給与課税となる場合の法人税上の処理は、役員給与の規定も関係するため、税理士へ確認してください。
まとめ
2026年4月1日以後の飲食店のまかない代について、所得税上の非課税要件は「本人が食事価額の半分以上を負担する」「店側負担が1人あたり月7,500円以下」の2つです。片方でも満たさなければ、食事価額と本人負担額の差額全体が給与課税の対象になります。
一方、給与天引きには書面の賃金控除協定が必要で、健康保険・厚生年金では都道府県別の現物給与価額と3分の2基準を使用します。まずは「食事価額」「本人負担」「店側負担」「利用食数」を従業員別に記録し、所得税、社会保険、給与控除を別々に判定できる運用へ改めましょう。

