結論からいうと、パート・アルバイトを含め、常時10人以上の労働者を使用する飲食店は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。作成・変更時には、事業場の過半数労働組合、該当する組合がなければ適正に選出した過半数代表者から意見を聴き、その意見書を添付します。
常時10人未満の店舗には労働基準法上の作成・届出義務はありません。ただし、シフト変更、遅刻・欠勤、まかない代、制服代、レジ差額、衛生、SNS利用などのトラブルを防ぐには、人数にかかわらず共通ルールを文書化しておくのが実務的です。
2026年11月2日時点で、厚生労働省が公開するモデル就業規則の最新版は令和7年12月版です。また、「いわゆるシフト制」に関する留意事項は2026年6月19日に改正され、年次有給休暇に関する説明などが追加されました。古いひな型をそのまま流用せず、最新資料と店舗の実際の運用を照合してください。(出典:厚生労働省「モデル就業規則について」、厚生労働省「いわゆる『シフト制』について」)
飲食店の就業規則で最初に確認する4項目
| 確認項目 | 結論 |
|---|---|
| 作成・届出義務 | 事業場で常時10人以上の労働者を使用する場合に必要 |
| 人数に含める人 | 正社員だけでなく、直接雇用するパート・アルバイトなども含む |
| 判定単位 | 会社全体ではなく、原則として店舗などの事業場単位 |
| 届出の基本書類 | 就業規則、就業規則(変更)届、過半数代表の意見書 |
「常時10人以上」の判定方法
同時出勤人数ではなく、通常使用している労働者数で判断する
「常時10人以上」は、同じ時間帯に10人が出勤しているという意味ではありません。事業場で通常使用している労働者の人数により判断し、正社員だけでなく、パートやアルバイトなども含めます。
例えば、社員2人とアルバイト8人を継続的に雇用し、1日当たりの出勤者が5~7人であっても、常態として合計10人を使用しているなら作成・届出の対象です。一方、通常は8人で、年末の数日間だけ短期スタッフを追加するような場合は、その雇用期間や勤務実態を踏まえて判断します。(出典:広島労働局「就業規則 ポイント1・2」)
多店舗経営では原則として店舗単位で判定する
10人基準は、原則として企業・法人全体ではなく「事業場」単位で判定します。飲食業では、場所的に独立して営業する各店舗が、それぞれ一つの事業場となるのが一般的です。
| 人員構成の例 | 基本的な考え方 |
|---|---|
| 1店舗で社員3人、アルバイト9人 | 合計12人のため、その店舗で作成・届出が必要 |
| A店8人、B店7人 | 各店が独立した事業場なら、各店とも10人未満 |
| 店舗11人、本部4人 | 店舗は対象。本部が別事業場なら本部単独で判定 |
| 独立性のない1~2人規模の売店と本店 | 直近上位の事業場と一括して扱われる可能性がある |
小規模なテイクアウト窓口、催事店、同一施設内の別ブランド店などは、場所、人事・労務管理、指揮命令、経理などの独立性を踏まえて判断されます。区分が難しい場合は、所轄の労働基準監督署へ確認してください。(出典:岩手労働局「労働者が10人以上になったときの基本の“き”」)
10人未満でも作成する価値がある
就業規則は、監督署へ提出するためだけの書類ではありません。採用時に説明しきれない共通ルールを整理し、経営者や店長による対応のばらつきを減らすための運営基準です。10人未満の店舗でも、少なくとも「勤務・シフト」「賃金」「服務規律」「退職」「懲戒」のルールは文書化し、対象者へ周知しておくとよいでしょう。
飲食店の就業規則に記載する項目
就業規則には、必ず記載する「絶対的必要記載事項」と、店舗に制度や定めがある場合に記載する「相対的必要記載事項」があります。(出典:厚生労働省「就業規則で必ず記載しておかなければならない事項はあるのですか?」)
| 区分 | 法定の主な記載事項 | 飲食店で確認する内容 |
|---|---|---|
| 必ず記載 | 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、交替制 | ランチ・ディナーの勤務パターン、シフト通知、休憩の与え方 |
| 必ず記載 | 賃金の決定・計算・支払方法、締切日、支払日、昇給 | 時給、手当、深夜時間帯、勤怠集計、昇給の有無・基準 |
| 必ず記載 | 退職に関する事項 | 自己都合退職、定年、解雇事由、貸与品の返却 |
| 制度がある場合 | 退職手当、臨時の賃金、最低賃金額 | 賞与、繁忙期手当、役職手当、退職金 |
| 制度がある場合 | 食費、作業用品などの労働者負担 | まかない代、制服代、クリーニング代 |
| 制度がある場合 | 安全衛生、職業訓練、災害補償 | 包丁・スライサー・フライヤーの安全、衛生教育 |
| 制度がある場合 | 表彰、制裁、その他全労働者に適用する事項 | 無断欠勤、金銭管理、情報持ち出し、SNS、ハラスメント |
個々のスタッフへ適用する雇用期間、就業場所、業務、賃金などは、就業規則とは別に労働条件通知書等で明示します。両者の内容が矛盾しないよう、飲食店 労働条件通知書 2026年10月改正|パート・アルバイト雇用の対応チェックリストと照合してください。
就業規則を作成・届出する7つの手順
手順1.現在の運用を棚卸しする
最初からひな型を書き換えるのではなく、現在の店舗運用を一覧化します。
- 雇用区分と規則の適用対象者
- 勤務時間帯とシフトパターン
- シフト希望の提出日、確定日、通知方法
- 休日、休暇、年次有給休暇の申請方法
- 賃金締切日、支払日、手当、昇給
- 遅刻・欠勤・早退時の連絡先と期限
- まかない、制服、名札などの費用負担
- 衛生、金銭、鍵、個人情報、SNSの管理
- 退職申出、貸与品返却、最終給与の手続
規則と実際の運用が異なる状態は避けなければなりません。先に運用を是正するのか、法令の範囲内で規則を実態に合わせるのかを決めます。
手順2.適用範囲を明確にする
正社員とパート・アルバイトで、勤務時間、休職、賞与、転勤、定年などが異なる場合は、正社員用の本則とは別にパート・アルバイト規程を設ける方法があります。その場合は、各規則の適用対象と優先関係を明記します。
パート・有期雇用労働者に関する就業規則を作成・変更するときは、事業場全体の過半数代表への法定の意見聴取に加え、対象となるパート・有期雇用労働者の過半数を代表すると認められる者からも意見を聴くことが努力義務とされています。(出典:厚生労働省「就業規則の作成の手続(第7条)」)
手順3.厚生労働省のモデルを自店向けに修正する
厚生労働省のモデル就業規則は出発点として有用ですが、そのまま提出するための完成品ではありません。複数の選択肢、削除すべき注記、自店にはない制度も含まれるため、店舗の雇用区分や勤務制度に合わせて修正します。
2026年11月2日時点の掲載版は令和7年12月版です。モデル内にある条文だけでなく、各条文の解説も確認してください。(出典:厚生労働省「モデル就業規則について」)
手順4.労働条件通知書や労使協定と照合する
就業規則に時間外・休日労働の条文を書くだけで、法定時間外労働や法定休日労働を行わせられるわけではありません。該当する勤務を命じる可能性がある場合は、36協定の締結・届出も必要です。詳しくは飲食店 36協定ガイド【2026年版】|必要なケース・上限時間・特別条項・届出手順を確認してください。
残業、深夜、法定休日労働が重なる場合は、就業規則の割増賃金条項と給与計算設定を一致させます。計算方法は飲食店 割増賃金計算【2026年版】|残業・深夜・休日の重複と週44時間特例で解説しています。
手順5.過半数代表者を適正に選出し、意見を聴く
事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、パート・アルバイトを含む全労働者の過半数を代表する者を選出します。過半数代表者は、次の条件を満たす必要があります。
- 労働基準法上の管理監督者ではない
- 就業規則の意見聴取を行う代表者の選出であることを明らかにする
- 投票、挙手、回覧による信任など、過半数の支持を確認できる方法で選ぶ
- 使用者が一方的に指名しない
「店長」という役職名だけで直ちに不適格になるわけではありませんが、実態として管理監督者に該当する人は過半数代表者になれません。選出の告知、候補者、投票・信任結果は記録しておくとよいでしょう。
必要なのは意見を聴くことであり、代表者の同意を得ることまでは届出要件ではありません。反対意見がある場合も、内容を書き換えずに意見書へ記載し、提出できます。(出典:厚生労働省「就業規則の作成にあたって、どのような手続を取ればよいのですか?」)
手順6.労働基準監督署へ届け出る
基本的な提出書類は次の3点です。
- 就業規則本体と、賃金規程などの附属規程
- 就業規則(変更)届
- 過半数代表の意見書
提出先は事業場を管轄する労働基準監督署です。変更時は、変更した規定や新旧対照表による届出が認められる場合もあります。法令上「10人になった日から何日以内」という一律の日数は定められていませんが、義務が生じた後は速やかに作成・届出を進めてください。
窓口・郵送のほか、電子申請も利用できます。複数店舗の本社一括届出については、届出方法ごとに要件が異なります。いずれの場合も、意見聴取と意見書の作成は原則として事業場ごとに必要です。(出典:厚生労働省「就業規則の本社一括届出について」)
手順7.全スタッフへ周知する
監督署へ届け出ただけでは完了ではありません。次のいずれかの方法により、対象となる労働者が必要なときに内容を確認できる状態にします。
- 書面を一人ひとりへ交付する
- 各作業場の見やすい場所へ掲示・備付けする
- 電子データとして保存し、容易に確認できる環境を整える
店長のスマートフォンにだけ保存する、閲覧を申し出た人にだけ見せる、グループチャットへ一度投稿するだけ、といった方法は避けましょう。クラウドを使う場合も、全対象者に閲覧権限があり、必要なときに容易にアクセスできる状態にします。
合理的な労働条件を定めた就業規則が労働契約の内容となるには、労働者への周知が重要です。(出典:e-Gov法令検索「労働契約法」第7条)
飲食店で特に設計しておきたい5つのルール
1.シフトの希望提出・確定・変更
シフト制では、希望の提出期限、確定シフトの通知期限、通知方法、変更申出の期限と手続を具体的に定めます。例えば「毎月10日までに希望を提出し、20日までに翌月分を通知する」など、自店で確実に守れる日程にします。
一度確定した労働日や労働時間の変更は、基本的に労働条件の変更に当たります。店側の都合だけで勤務を削減・追加せず、労働者との合意により変更してください。2026年6月19日改正の厚生労働省資料には、シフト制労働者の年次有給休暇に関する説明も追加されています。(出典:厚生労働省「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」)
有給休暇の付与日数、賃金、年5日の取得義務は、飲食店のシフト制アルバイトの有給休暇【2026年版】|付与日数・賃金・年5日義務も参照してください。
2.遅刻・欠勤・無断欠勤
「始業時刻までに店長へ電話する」「食品を扱えない体調不良は判明時点で連絡する」など、連絡先、期限、連絡方法を定めます。欠員補充は店舗管理者が最終的に判断し、欠勤する本人に代替スタッフを必ず見つけさせる運用だけに依存しないようにします。
遅刻・早退・欠勤により実際に働かなかった時間分の賃金を支払わないことと、懲戒として追加の減給を行うことは別です。懲戒減給を定める場合は、1回の額が平均賃金1日分の半額以下、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下という制限があります。懲戒事由と処分内容には、客観的な合理性と社会通念上の相当性も必要です。(出典:厚生労働省「労働基準法」第91条)
3.まかない代・制服代などの負担
まかない代、制服代、クリーニング代、名札代などをスタッフに負担させる場合は、対象者、金額、計算方法、精算時期を明確にします。就業規則に書くだけで自由に給与天引きできるわけではありません。
税金や社会保険料など法令に基づく控除以外の費用を賃金から控除する場合は、費用負担の有効な根拠を整えたうえで、原則として賃金控除に関する労使協定も必要です。まかないは所得税や社会保険の扱いも関係するため、飲食店 まかない代の税務【2026年改正】|7,500円基準・給与天引き・社会保険も確認してください。
4.レジ差額・食器破損・注文ミス
「レジ不足は担当者の給与から全額引く」「食器を割ったら一律1,000円」など、損害額をあらかじめ固定したり、自動的に給与から控除したりする規定は設けないでください。違約金や損害賠償額を予定する契約は労働基準法第16条との関係があり、賃金からの一方的な天引きは全額払いの原則に反します。
実際に労働者の故意・過失による損害賠償責任が問題となる場合でも、直ちに賃金から天引きできるわけではありません。規則には、差額や破損の報告、事実確認、証拠保全、再発防止、故意や重大な違反が疑われる場合の調査手続を定めます。(出典:厚生労働省「不良品を出すごとに賠償金を賃金控除することは、労基法上許されますか?」)
5.衛生、秘密情報、SNS
飲食店では、手洗い、健康状態の申告、異物混入時の報告、許可のない食材持ち帰りの禁止、レシピ・売上・顧客情報の外部送信禁止などを具体的に定めます。
SNSについては抽象的に「不適切な投稿を禁止する」と書くだけでなく、顧客や同僚が写った写真、予約台帳、レジ画面、バックヤード、鍵やセキュリティ設備、未発表メニューなど、撮影・投稿・送信してはいけない対象を例示すると教育しやすくなります。
飲食店が避けたい就業規則の失敗
- モデル規則をそのまま提出する:実際には運用していない手当や休職制度まで自店のルールになるおそれがあります。
- 正社員だけで10人基準を判定する:直接雇用するパート・アルバイトなども含めます。
- 代表者を経営者側が指名する:目的を明示し、過半数の支持を確認できる方法で選出します。
- 届出後に周知しない:スタッフが必要なときに確認できる状態を維持します。
- 確定シフトを店側だけで変更できると書く:確定後の変更は労使の合意を基本とします。
- レジ不足や破損を自動的に給与控除する:損害賠償の予定や賃金全額払いの原則に抵触するおそれがあります。
- 懲戒事由を「店の信用を損ねたとき」だけで済ませる:対象行為と処分の種類・程度をできるだけ明確にします。
- 手当や休暇を告知だけで不利益変更する:合理性と周知を含む労働契約法上の要件を確認します。
就業規則の作成・届出、意見聴取、周知などの義務に違反した場合、労働基準法第120条により30万円以下の罰金の対象となる可能性があります。罰則への対応だけでなく、採用時の説明、店長判断、給与計算を統一する店舗運営の基盤として活用しましょう。(出典:厚生労働省「労働基準法」第89条、第90条、第106条、第120条)
飲食店の就業規則に関するFAQ
Q.在籍者は12人ですが、同時に出勤するのは6人です。届出は必要ですか?
常態として使用する労働者が12人なら、同時出勤人数が10人未満でも、原則として作成・届出が必要です。席数や1日のシフト人数ではなく、事業場で通常使用している労働者数で判断します。
Q.10人未満の店舗が自主的に作った就業規則も届け出ますか?
常時10人未満であれば、労働基準法上の届出義務はありません。ただし、店舗の共通ルールとして運用するなら、対象者がいつでも確認できるよう周知してください。労働契約の内容として効力を持たせるうえでも、周知は重要です。
Q.10人になってから何日以内に届け出る必要がありますか?
「10日以内」などの一律の日数は定められていませんが、常時10人以上となった時点で作成・届出義務が生じます。人数到達を把握したら、過半数代表者の選出や意見聴取を含め、速やかに手続を進めてください。
Q.パート・アルバイト規程だけ別にできますか?
可能です。ただし、本則との優先関係と適用対象者を明記します。労働基準法上の意見聴取は、正社員とパート・アルバイトを含む事業場全体の過半数代表に対して行います。加えて、対象となるパート・有期雇用労働者の代表からも意見を聴くよう努めます。
Q.過半数代表者が反対したら届出できませんか?
同意までは必要とされていないため、反対意見があっても届出は可能です。反対意見を使用者側で書き換えず、そのまま意見書へ記載します。ただし、導入後のトラブルを防ぐため、反対理由を確認し、修正や説明の必要性を検討してください。
Q.就業規則を変更すれば、既存スタッフの手当を減らせますか?
届出をしただけで、既存スタッフの労働条件を自由に引き下げられるわけではありません。不利益変更は労使の合意が原則です。就業規則によって変更する場合も、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、説明・交渉の状況などに照らした合理性と、変更後の規則の周知が必要です。賃金や手当の引下げは、社会保険労務士や弁護士へ相談して進めてください。
Q.就業規則は一度作れば更新不要ですか?
いいえ。法改正だけでなく、営業時間、定休日、給与制度、シフト作成方法、雇用区分、まかない制度、制服代などを変更した場合にも見直します。変更時は、原則として再度の意見聴取、届出、周知が必要です。
まとめ
飲食店の就業規則は、常時10人以上の事業場に義務付けられた書類であると同時に、シフト、賃金、欠勤、衛生、金銭管理などの判断を統一する運営基準です。
- 店舗単位で、パート・アルバイトを含む労働者数を確認する
- 実際の運用を棚卸しし、最新のモデル規則を自店向けに修正する
- 労働条件通知書、36協定、給与計算設定との矛盾をなくす
- 過半数代表者を適正に選出し、意見書を作成する
- 監督署へ届け出た後、全スタッフへ確実に周知する
特に、確定後のシフト変更、まかない代、レジ差額、懲戒減給はトラブルになりやすい項目です。法令上の制限だけでなく、現場で無理なく守れる申請・承認・記録の手続まで具体化してください。

